父に勘当され、東京に...八代亜紀さんが歩んだ「歌から離れられない人生」
やるべきことだけに時間を使わない
それからはもう、ただただ忙しい日々が続きました。でも私は、絵を描くこともやめられなかったのです。仕事があっても、周りに叱られて止められても、朝まで描いてしまうんですね。 とうとう、見かねたマネージャーが月に何日か絵を描く日をとってくれるように。それからは気持ちも落ち着きました。私にとっては歌が絵を支え、絵が歌を支えてくれているんです。 自分には好きなことがないと言う人もいますが、子どものころにはきっとあったはず。それを思い出してみるのがいいと思います。 コンサートで、ファンの方にはよく言うんです。「月に一度だけ、家事を休む日をカレンダーに書き込んでみて」って。そうするとね、家族も観念しますから。 友達とランチをしたり、ゆっくり美容院に行ったりするのもいいと思います。そうしているうちに、この一日をもっと有効にすごしたいと思うようになるんですよ。月に一度でも、やりたかった習いごとができるかもしれない。あるいはお友だちと好きなことをするために集まる会を作って、一緒に何かできるかもしれない。 好きなこととどうかかわるかは人それぞれだと思います。ただ、私は「好きなこと」から離れることができなかった人生を、しみじみとありがたいと感じています。 【八代亜紀(やしろ・あき)】 歌手。熊本県八代市出身。1971年デビュー。数々のヒット曲があり、’80年、「雨の慕情」で第22回日本レコード大賞・大賞を受賞する。2010年には、歌唱技術が認められ文化庁長官表彰を受賞。絵画では、世界最古の美術展、フランスの「ル・サロン」で5年連続入選を果たし永久会員となる。2023年末に逝去。
八代亜紀(歌手)