「60歳の細胞をゼロ歳に戻す」...「山中因子」を使った「若返り」研究の最先端に迫る!
老化のメカニズム
iPS細胞によって理論的には細胞は若返るはずですが、初期化をうまく途中で止めることができるかどうか。細胞の種類まで変わってしまうと困るので、皮膚は皮膚に、心臓は心臓になって、細胞の年齢だけ若くするわけです。60歳の細胞をたとえば30歳の細胞にする。いい塩梅にそれができるかどうか、その辺を見極めたいと思っています。まだ歴史の浅い研究分野ですから、これからでしょうね。それは健康寿命を延ばす2つ目のアプローチです。 谷川 お話を伺っていると、「なぜ人間は老化するのか」という根本的な謎に迫っているように思えます。 山中 おっしゃる通りです。たとえば、生物の染色体の端っこには「テロメア」という紐のような構造が付いていて、細胞が分裂して遺伝子が複製されるたびに、このテロメアが少しずつ短くなっていくことがわかっています。細胞がどんどん分裂して、テロメアがある長さまで短くなると、その瞬間に細胞はもう分裂できなくなります。「テロメアが短くなることで生物は老化するのではないか」という仮説をもとに、iPS細胞でテロメアを最初の長さに戻してやれば、寿命が延ばせるのではないかという研究もあります。 でもこれは細胞ががん化するリスクを高めることにもなるんです。iPS細胞でテロメアが長くなり、細胞レベルでは明らかに若返っているんですけれど、遺伝子が変異した細胞の耐久性も上げてしまいますので、がん化のリスクもあります。そう考えると諸刃の剣なんですね。 『寿命の限界は120歳⁉...老化の研究から判明した「不老不死」実現の「残酷すぎる」真実』へ続く
山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)/谷川 浩司(棋士)