中学野球の一発勝負は「犠牲で成り立つ構図」 “文化”で決断…名門衝撃移籍の真相
選手の出場機会増で「おじいちゃん、おばあちゃんも観戦に来るように」
効果は早速現れている。10月の関東連盟秋季大会で、新生・高崎中央ポニーは実力別に3チームを登録し、Aチームが初優勝、Bチームも3位に入り、2025年春の全国大会出場を決めた。Bチームは予選リーグで強豪・江東ライオンズを破る“金星”も挙げた。「まさかBチームも全国に出られるとは。最高のシナリオが描けたし、何よりBチーム、Cチームの選手たちの目の輝きが変わった」と倉俣監督は変化を口にする。 さらに“相乗効果”も実感している。出場選手が限られていたボーイズ時代は、スタンドに応援に来る保護者と顔を出さない保護者とがハッキリ分かれていた。「自分の子が主役になれない」とわかっているから、わざわざ見に来ないのだ。それが、リーグ戦で「試合に必ず出られる」保証があることで、保護者だけでなく「おじいちゃん、おばあちゃんまで観戦に来ることが増えたんです」と笑う。 「野球を通じた家庭内のコミュニケーション作りにもつながっている。両親やきょうだい、さらに祖父母と、家族の中に熱烈なサポーターがいること。たくさんの人が自分を見てくれている、期待されているという経験は、子どもの成長には大事なことなんだと感じました」 逆にデメリットはないのか。指揮官が強いて挙げるのは、試合数が増えることで遠征距離や移動時間が増すこと。ただそれも、「長距離遠征のある高校野球に向けた“トレーニング”と考えれば、アリなこと」とポジティブに捉えている。 メリットが多いならば他の中学硬式連盟でもリーグ戦を、と思うかもしれないが、登録チーム数の規模が違う。ボーイズは全国で小・中学合わせて約720と最大規模、一方でポニーは190チーム余りだ。“小規模”だからこそ試合会場も確保でき、リーグ戦ができるという面もある。 巨人の野球振興部長でもある倉俣監督は、私案として「硬式で試合に出られない選手でチームを作り、軟式球でリーグ戦をやるのもいいのではないか。軟式であれば中学校の校庭も使えるし、硬式が(レベルが)上ということは決してない。軟式出身のプロ野球選手もたくさんいるんですから」とアイデアを語る。 どうすれば、多くの選手たちに野球を通して“ヒーロー体験”を積んでもらえるのか、野球を通して成長を実感してもらえるか……。子どもたちの未来のためにできることは、まだたくさんある。
高橋幸司 / Koji Takahashi