大阪・交通科学博物館閉館まで1週間、別れを惜しむ人々でにぎわう
「神業」が見られる大ジオラマ
一方、遠山さんのイチオシは館内奥の「模型鉄道パノラマ室」。縮尺1/80のHOゲージが線路延長400mという大ジオラマを快走します。このジオラマのすごいところは、列車の運行がすべて手作業で行われている点。ホンモノの鉄道さながらの集中制御盤でポイントを切り替え、何本もの列車を同時に走らせる姿はまさに「神業」です。車両の解説はもちろん、どの車両をどの順番で走らせるかも担当するスタッフに任されているとのこと。ちなみに、閉館間際にもかかわらず新車が導入されたり、車両にヘッドマークがついたりと、「この期に及んで」どんどんパワーアップしているそうで、その辺も要チェックです。
明治から昭和の貴重な車両を保存
遠山さんのもう一つのお勧めは、第7室。冒頭にも書いた通り、ここ「交通科学博物館」は、鉄道以外の交通に関する展示も充実しています。国鉄の夜行高速バス「ドリーム号」第1号車や昭和初期の自動車「ダットサン」、戦後の日本航空機技術の礎となった川崎航空機KAL-1形小型機など、バスや自動車、航空機、二輪車が所狭しと展示されています。一見すると「ごちゃごちゃっ」と展示されていますが、その一つ一つが貴重な歴史の証人。そしてその雰囲気も「昭和の博物館」といった感じで、それがまた来館者に親しみを与えています。 最後に筆者のお勧めを。それは屋外の「プラットホーム・プラザ」です。京都駅のホーム上屋を再利用した屋根の下に、明治~昭和の貴重な車両が保存されています。このホームにはベンチや水飲み場も再現されていて、ベンチに座って車両を眺めれば、なんとも懐かしい気分に浸れます。鉄道ファンならだれもが思う? 「あと10年早く生まれたかった!」という願いが、少しだけ満たされるような気がします。
大部分の展示物は2年後開館の博物館へ
半世紀以上にわたって大阪の鉄道ファンのみならず関西の交通ファンから愛されてきた交博ですが、上を走る大阪環状線の耐震補強工事等の関係で、残念ながらまもなくその歴史に幕を下ろします。現在、交博では最後の企画展「52年の軌跡展」を開催中。交博の企画展は「お客様のアンケートや意見を元に、とことんこだわって作っている(兵東館長)」そうで、交博に数々の車両が搬入される様子など、今回も渾身の内容となっています。 大部分の展示物は2年後に開館する「京都鉄道博物館」へ移設されるそうで、すでに着々と準備が進められています。とはいえ、昭和の雰囲気を残すこの空間を楽しめるのはあとわずか。子供の頃を思い出させてくれる交博、最後にもう一度訪れてみてはいかがでしょうか。そして「52年間のご愛顧、本当にありがとうございました。また京都で会いましょう!」(兵東館長)。 (文/伊原薫/鉄道ライター) ■伊原薫(いはら・かおる) 大阪府生まれ。京都大学大学院・都市交通政策技術者。(一社)交通環境整備ネットワーク会員。グッズ制作やイベント企画から物書き・監修などに取り組む。都市交通政策や鉄道と地域の活性化にも携わっている。好きなものは103系、キハ30、和田岬線、北千住駅の発車メロディ。