現代にもつながる「紫の上の死」の描かれ方 大河ドラマ「光る君へ」で見たい源氏物語の名シーンは
現代にも通じる「紫の上の最期」
水野:ほかにこれぞ!という名シーンはありますか? たらればさん:「蛍」のシーンか、紫の上の最期のシーン(「御法」)でしょうか。 水野:紫の上の最期は選択肢(13)ですね。これも18%の票を集めている人気のシーンでした。 <(13) 二条院で盛大な法会を開き交流のあった人々へ別れを告げ、春の日の美しさに感嘆し、秋の日の寂しさに自らの運命を重ねる紫の上の達観と祈りと死のシーン[御法]> たらればさん:紫の上が自分の死期を悟って最期に法会を開いたとき、「世界の美しさ」に気づかせるという演出、パーフェクトですよね。本当にすばらしいです。 水野:『源氏物語』にはいろんな女性の苦しみが描かれていますけど、紫の上はそのなかでも最期まで苦しんだ人なのかなぁ、と感じていました。 たらればさん:これは以前、緩和ケアが専門の医師・西智弘先生との話でも出たんですが、現代にも通じる「最期」の問題なんですよね。 紫の上は作中で何度も出家したいと願い出ますが、夫である光源氏は「もう少しあなたと一緒にいたい」「出家しないでくれ」と止めます。 本人は自分が死ぬことを受け入れていて、安らかに死にたいと願い、「この方法で」と伝えるけれど、家族はそれを認められない――。 現代なら、本人は望んでいないのに家族だけが延命治療を選択して「一瞬でも長く一緒に生きていてほしい」と願うケースに近いですよね。本人も「家族がそう言うなら…」と自分を押し殺して気持ちが引きずられてしまうという。 水野:そうですね…。どちらの気持ちも分かるなぁ…。
「世界は美しい」紫の上の思い
たらればさん:本人にとって望む最期を迎えられないと、「死」という人生の一大イベントが「自分のもの」ではなくなってしまうんですよね。 紫の上の場合、もういろいろなことを諦めて出家したい、静かに自分の死と向き合いたい、と願っているのに、最愛の夫はそれを認めてくれない、どうすればいいんだ、と、そこまで追い詰められたところで、紫の上がどんな心境になったかというと……「ああ、わたしの生きているこの世界は、なんと美しいんだろう…」という1万点の答えになるわけですよ。 水野:何度読んでも、紫の上の最期のシーンは泣いてしまいます…。 たらればさん:ここは、原文で読み返しても鳥肌が立ちます。 夜が明けていって、花が美しくて、小鳥がさえずっていて…という情景描写が急に入ってきて、「よろづのこと、あはれにおぼえ給ふ」とつづられます。 きっと紫式部もここは腕によりをかけて書いたんだと思いますね。原文も美しいので、ぜひ読んでほしいと思います。 水野:それにしても、皆さんの『源氏物語』への愛を感じるアンケートになりましたね。 たらればさん:いや~皆さんの変なスイッチ押しちゃったなぁ、と思いましたよ(笑)。 水野:選択肢以外に寄せられた熱いコメントは、次回6月2日21時からのスペースで紹介させていただきます。 ◆これまでのたらればさんの「光る君へ」スペース採録記事は、こちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。次回のたらればさんとのスペースは、6月2日21時~に開催します。