機能不全に陥った日本の政治をどう立て直すか/石破茂氏(衆院議員)
政治も経済も、そして社会も、日本のすべてが機能不全に陥っているように見える。ここまで政権の支持率が下がれば、普通は野党が国民の支持の新たな受け皿にならなければならないはずだ。しかし、その野党も四分五裂を繰り返し、直ちに政権をもぎ取れる体制ができているとは残念ながら言い難い。 そこでここは一つ、与党内野党の立場を貫いてきた石破茂氏に、現在の政治状況をどう見ているのか、今政治は何をしなければならないのかなどについて聞いてみた。 政治は物価高や少子化に対して一向に有効な手立てを打てないまま、不祥事の連鎖が止まらない。結果、経済は30年も停滞したまま、今や日本は先進国の地位から滑り落ちる寸前まで貧しくなってしまった。当然、政権の支持率は2012年の政権交代以来最低の20%台に低迷しているが、政権与党もマスメディアも既得権益の側にあるためか、現在の危機的な状況に抜本的な変革を求める声が社会から一向に上がってこない。 しかし、市民の間で常に次の首相候補に名前があがる石破茂氏は現在の日本の状況をどう考えているのか。 内閣支持率の低迷について石破氏は、これ自体は驚くべきことではないと言う。自民党は国会で過半数の議席を得ているが、衆参ともに選挙の投票率が50%程度のため、実際に自民党に投票している人は元々有権者全体の25%前後しかいないというのがその理由だ。 しかし、逆の見方をすれば、今の自民党は有権者の4分の1に過ぎない伝統的な自民党支持者からの支持しか得られなくなっていることになる。次の選挙でわずかでも投票率が上がれば、自民党は壊滅的な敗北を喫する可能性が現実味を増してきているということだ。 特に深刻なのは、日本経済が30年も低迷を続けているのに、岸田政権が有効な経済政策を打ち出せていないことだ。岸田政権の経済政策について石破氏は、「成長と分配の好循環」はそもそも今の構造のままでは無理だとの見方を示す。確かに人口ボーナスに後押しされていた高度経済成長期には、成長と分配の好循環は可能だった。しかし日本は人口減少期に突入しており、その状況は少なくとも向こう40年は変わらない。しかも、実際に今、モノを作っているのは海外だ。 日本経済を低迷から救うためには産業構造の改革が不可欠だと訴える石破氏は、これまで日本が円安と低金利で企業を甘やかしてきたことを問題視する。人口減少に太刀打ちするには個々の生産性を上げるしかないが、これまでは生産性が低いままでも企業は生き残れた。そのために魅力的な商品やサービスを提供できる企業が育たなくなってしまったと石破氏は言う。理論的にはその通りだが、仮に石破政権が実現した時に、どこまで企業に対して厳しい施策を打ち出せるかは現時点では未知数だ。 その一方で、日本のポテンシャルを伸ばす方法はたくさんあり、特に地方にそのカギがあると石破氏は言う。そもそも東京への一極集中は限界を超えており、災害のリスクなどを考えると、地方への富の分散は待ったなしというのが石破氏の考えだ。 現在永田町を震撼させているパーティ券問題と裏金疑惑について石破氏は、パーティそのものが悪いのではなく、それが適正に報告されなかったり、裏金になっているところが問題であることを指摘する。アメリカ法をモデルに戦後作られた日本の政治資金規正法は元来、政治資金の金額を制限することを目的としたものではなく、カネの出入りをガラス張りにすることで、利益相反や癒着の政治を防ぐことにあった。その意味で今回、パーティ券収入が適正に報告されていなかったり、その一部が裏金として政治家にキックバックされていた問題は、政治資金規正法の精神の根幹に触れる重大な問題であることは間違いない。 しかし、その一方で、ここに来て記者クラブメディアが毎日のように囃し立てているパーティ券疑惑は、ほぼ全面的に東京地検特捜部によるリーク情報だ。特捜検察が政治の権力闘争に敏感であることは、今さら論を俟たない。今回のパーティ券疑惑が主に安倍派を標的としたものであり、特捜の捜査が官邸のお墨付きを得たものであると考えられる点には注意が必要だ。 自民党への国民の支持がどん底まで落ちた時、石破氏は政権を引き受ける覚悟はあるのか。その時日本を立て直すには何をしなければならないと考えているのかなどについて、自民党元幹事長の石破茂氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。 【プロフィール】 石破 茂 (いしば しげる) 衆院議員 1957年東京都生まれ。79年慶應義塾大学法学部卒業。同年、三井銀行(現三井住友銀行)入社。86年衆院初当選(衆院・旧鳥取全県区)。93年新進党入党。97年自民党に復党。農水相、防衛相、党幹事長などを歴任。衆院12回(鳥取1区)。著書に『異論正論』、『日本列島創生論』、『日本人のための「集団的自衛権」入門』など。 宮台 真司 (みやだい しんじ) 東京都立大学教授/社会学者 1959年宮城県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)著書に『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-』、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』、共著に『民主主義が一度もなかった国・日本』など。 神保 哲生 (じんぼう てつお) ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表 ・編集主幹 1961年東京都生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。 【ビデオニュース・ドットコムについて】 ビデオニュース・ドットコムは真に公共的な報道のためには広告に依存しない経営基盤が不可欠との考えから、会員の皆様よりいただく視聴料(月額500円+消費税)によって運営されているニュース専門インターネット放送局です。 (本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)