リスペクトと次元が交差する、夢の一夜 VΔLZ×DRAMATIC STARS『劇的演舞』ライブレポート
それぞれの個性が輝き、魅力を伝え合うソロメドレー
続いてのブロックはソロメドレー。明かりが落ち、長尾景ひとりの姿がステージに浮かび上がり、彼の楽曲のなかでも高い人気を誇る「Universe」を披露。力強いボーカル、美しいロングトーンで広大な世界観を描き出していくと、曲のアウトロでは天道輝がステージへ登場。ポーズを決め、そのまま「Beginning Tomorrow」へとつないでいく。長尾が「交代だ」とばかりにグータッチを決めステージを去ると、天道のソロがスタート。軽快なステップを繰り出し、全身で星のきらめきを表現する。 次に上手から弦月藤士郎が大きく手を振りながら登場。曲は「wanderland」だ。笑顔を絶やさず軽やかなEDMのリズムに甘い歌声を載せ、ステージを自由に泳ぐかのようなパフォーマンスを見せてくれた。すると、今度は柏木翼がステージに登場し「スカイスケープノート」がスタート。弦月がイメージカラーにあわせた光でライトアップされた滑走路をバックに、冒頭のサビを柏木と共にダンスしステージを去っていく。柏木はときおりカメラにも手を振りながら、伸びやかなボーカルとしなやかなダンスで魅了した。 柏木と入れ替わるようにして、大きく手を振りながら登場したのは甲斐田晴。爽やかで前向きな楽曲「Shiny Sunny Step」へとスムーズに繋げていく。ファルセットで歌いこなす高音のメロディが心地良い。曲の最後には桜庭薫がステージへ。甲斐田と目を合わせながら手を振り、そのまま「My Starry Song」のソロパフォーマンスへ移る。ステージに一人残った桜庭は美しい声とその高い歌唱力、ステージを自分だけの色に染めていく。 あっという間の時間が過ぎ、ここでようやくひと息。それぞれの歌声やパフォーマンスの個性、楽曲の世界観や空気感を味わえる、ここでしか見られない贅沢なメドレーだった。それも、ただ曲を歌い継ぐだけではなく、テーマや曲調に合わせグラデーションのように楽曲が繋がれていき、コラボの組み合わせもお互いの魅力を引き出した秀逸な演出だ。 さらに、今回のライブではお互いの楽曲のカバーもおこなった。DRAMATIC STARSは「浮世の演舞」をカバー。和風アレンジが魅力の難曲を、高い歌唱力で歌いこなしていく。和風の曲調とDRAMATIC STARSの組み合わせは新鮮だが、3人の声が不思議とマッチしていて、要所要所でVΔLZが有する演劇性をなぞることで、彼らなりのリスペクトを示したようだった。彼らが歌うことで、楽曲のシリアスな側面がなりをひそめ、どこか明るい空気を醸し出していたのが印象的だ。図らずもDRAMATIC STARSの個性によって「浮世の演舞」の新しい解釈を提示した形となり、これはVΔLZのファンにとってもうれしい驚きだったと思う。 VΔLZは、過去に長尾がカバーしたこともあり期待度の高かった「MOON NIGHTのせいにして」をカバー。こちらも本家へのリスペクトを全面に押し出した、丁寧で細やかなパフォーマンスだ。何よりVΔLZの3人の歌声やパフォーマンスからは、「この曲とDRAMATIC STARSが大好きだ」という気持ちがあふれんばかりに伝わってくる。この曲の楽しさや爆発力、そして妖しさはVΔLZの持つ物語性とも相性が良く、楽曲のパワーと二組の相性の良さを再認識させたステージだった。きっと、互いのファンがそれぞれのユニットの魅力をさらに深く知るきっかけになっただろう。 お互いをねぎらい、一人ずつ今回のライブの感想と感謝、そしてお互いへのリスペクトを語ると、いよいよライブは終盤へ。 最後の曲は、今回のライブのために作られたコラボレーション曲「Amazing Moment」。キャッチ―で前向きなメロディ、二組のニュアンスを多分に含むワードが散りばめられた歌詞、息の合ったダンスや掛け合いと、VΔLZとDRAMATIC STARSの絆をぎゅっと詰め込んだような一曲だ。顔を見合わせ笑顔を交わしたり、それぞれのハンドサインでこの特別な時を喜ぶ6人の姿が、バーチャルとは思えないほどリアルに伝わるのは、高いAR技術にくわえて、このライブを作るすべての人の想いが本物である証だろう。 ■大きな盛り上がりを記録し、ファン同士をつなぐ役割も果たした『劇的演舞』 SNSでのトレンド入りや、ライブ後の盛り上がりも含め、今回のライブは大成功の結果といえるだろう。SNSにはお互いのファンがコラボ相手の楽曲を聴きにYouTubeチャンネルを訪れたという投稿も多く見られた。 3Dモデルの形でライブを行うコンテンツが急増する昨今、「アイドル」とパフォーマー・ボーカリスト」の境界は曖昧で、そのバランスで呼び名が変わることもある。VΔLZとDRAMATIC STARSはその比率や手法が違う二組だが、表現方法という部分で双方に多大な好影響を与え合っただろう。DRAMATIC STARSの実在性、VΔLZの武器である演劇性をさらに補強するという意味でも、今回のコラボはそれぞれのユニットにとって、きっと大きな経験となっただろう。 何より、大切な代表曲をカバーし合ったことや、親和性の高いセットリスト、空や星といった共通するキーワードを演出に組み込んだことにも表れているように、今回のコラボレーションには終始双方のリスペクトと愛が感じられた。シンプルにして一番大切な、“異次元コラボ成功の秘訣”を見たように思う。
草野英絵