なぜ渋野日向子は予選落ちから逆転優勝の異例V字回復を遂げたのか。そして逆転賞金女王獲得の条件とは?
「子供たちと触れ合って、初心に帰ることができた。両親と短い時間だけど話すこともできた。応援してくれる地元の人たちには『今まで当たり前のように予選を通過してくれてありがとう』とも言われた。一日でいろんなことを思い出させてくれた。だから今季の残り2試合は自分のためではなく、家族だったり、キャディーさんだったり、地元の方とか応援してくれるみんなのために頑張ろうと思った」 惰性で試合に出ていたわけではない。ただ、プロテストに合格してまだ1年しか経っていないツアールーキーには、海外メジャー優勝はあまりに大きな偉業だった。次の目標には国内ツアーの賞金女王を掲げたが、気持ちが追いついてこなかったのも事実だろう。 先輩プロに誘われて宝塚歌劇団を観に出かけたり、アイメークをこれまでのピンク系からブラウン系に変えたり、変化を求めたが、一番の特効薬はこれまでの自分の生活を取り戻すことだったようだ。わずか一日でも、効果はてきめん。 最終日に急きょコースに入り、優勝を見届けた青木コーチはこう話す。 「すべてが中途半端になっていた。いろんなことがいっぺんに変わって、自分も戸惑っている。まして渋野本人はもっとでしょう。なんかかしこまっているところもある。でも、予選落ちして家に帰り、いつもの場所で練習することで、しっかり前を向いて歩くしかないという気持ちになった。渋野には、自分で決めたことはちゃんと実行できる力があるんです」 それが異例ともいえる予選落ちから逆転優勝――のV字回復の理由だった。
決勝ラウンドの2日間はボギーなしという完全復活のゴルフで、一度はあきらめた賞金女王奪取の可能性が再び出てきた。賞金ランキングは3位のままだが、優勝賞金1800万円を上積みして、トップの鈴木とは1511万1351円差、2位の申ジエは11位と失速したことで、12万2881円差に詰め寄った。 優勝賞金が3000万円となる最終戦「LPGAツアー選手権リコー杯」で渋野が賞金女王の座を射止めるには、鈴木、申ジエを順位で上回り、単独2位以内に入ることが最低条件となる。そのハードルはかなり高い。それでも渋野ならば大逆転の戴冠をやってのけそうな気配が漂ってくる。何が飛び出すか分からない、びっくり箱のような強さが渋野の最大の武器だ。 2007年の上田桃子が持つ21歳156日を更新する史上最年少女王への挑戦。「そこは考えないようにしたい。だから今週も考えない方がいいかな。でも、難しい。そうですよね。やっぱりどっかで考えてしまう。とにかく、いい締めくくりがしたい」 最終戦の優勝で賞金女王を決めれば、1995年の塩谷育代、2004年の不動裕理、2008年の古閑美保、2009年の横峯さくらに次いでツアー史上5人目。2週連続優勝での決定ならツアー初の快挙となる。