ちょっとトンマなウエスタン感にグッときました【みうらじゅんの映画チラシ放談】『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』『密輸 1970』
『密輸 1970』
── 2枚目のチラシは、韓国のリュ・スンワン監督の新作『密輸1970』です。 みうら これはチラシでもすぐ分かったんですけど、“海女映画”ですね! 海女の発祥は韓国だと聞いてます。 もう、20年近く前になりますが、当時のマイブームが海女で日本の海女ゾーンを旅してたことがあります。日本海の舳倉島(へぐりじま)っていうところの海女さんの絵ハガキを手に入れたんですが、トップレスなんですよ。紐パンみたいなのをお履きになってる写真なんです。僕が思うにこれが日本初のグラドルではないかと。そんな映画でしょうね。 ── でもタイトルに「密輸」って書いてますけどね(笑)。 みうら ですよね(笑)。つーことは、海女さんが何かの事情で密輸に加担するんでしょう。いつもは貝をお獲りになってるけども、あるとき、昔沈んだ船が見つかって、巨額の金塊が発見される。で、そこから悪い奴らが寄ってきて大騒動。たぶん、1970年代っていう時代が重要になってくるんでしょうね。 ── 現代のテクノロジーがないからこそ成立する話ってことですか? みうら きっと、そうです。当然NHKの朝ドラ『あまちゃん』よりもずっと昔の話であることは確かです。日本で言えば、新東宝や大蔵映画の時代背景です。サスペンス&お色気映画なんでしょうね。 海女さんは、頭に巻く布のところに「セーマンドーマン」っていう魔除けのマークを描くんです。それは海にはトモカヅキっていう魔物がいて、海女さんと同じ顔をした妖怪から身を守るためなんですよ。 ── そんなのに海で会ったら怖いじゃないですか。 みうら それを見たら死ぬみたいな。きっと、海の妖怪との対決シーンもあると思いますよ。 ── みうらさん、びっくりするほどチラシのサメのことを無視してませんか? みうら あ、本当だ(笑)。海女の方に食いつき過ぎてサメを見落としてました (笑)。 『海女の化け物屋敷』は三原葉子さん、『海女の戦慄』は前田通子さんが大活躍されます。ぜひ、日本の海女映画も観てほしいものです。 ── チラシの裏には「1秒たりとも無駄がない」って書いてありますね。 みうら 海女さんは素潜りですからね。1秒たりとも無駄はありません(笑)。映画を観る方も息を止めなきゃならないかもですよ。 取材・文:村山章 (C)2024 El Deseo D.A. S.L.U. All Rights Reserved. (C)2023 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & FILMMAKERS R&K. All Rights Reserved. ■みうらじゅんプロフィール 1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。