【今見るべき美術展】国立新美術館『マティス 自由なフォルム』日本初公開の大作は必見
アンリ・マティスが晩年を過ごしたフランス・ニースにあるニース市マティス美術館ほかから、約150点もの作品が東京・六本木の国立新美術館に届いた。見どころは、日本初公開となる4.1×8.7mの切り紙絵の大作《花と果実》、そして1/1スケールで再現されたヴァンスのロザリオ礼拝堂だ 【写真】『マティス 自由なフォルム』出展作品
“Cette chapelle est pour moi l’aboutissement de toute ma vie de travail” (この礼拝堂は、私にとって一生の仕事の集大成である) マティスが最晩年に取り組み、こう語ったヴァンスのロザリオ礼拝堂。本展最大の見どころは、この礼拝堂の1/1スケールの再現展示にある。白い壁に掲げられたタイル画、切り紙絵の手法でデザインされたステンドグラス窓の位置やサイズはもちろん、入り口の位置、祭壇の段差の上がり框や床の模様、キャンドルスタンドのデザインなどの詳細も見事に再現されている。 さらに興味深い仕掛けがある。ここでは、24時間を3分間に凝縮した自然光の動きが再現されているのだ。真っ暗な中にキャンドルだけが灯る夜間から次第に明るくなり、マティスが「冬の朝11時がベスト」と語った朝の低い光で、ステンドグラスの色彩がタイル画に反射する。日が暮れるにつれて床に落ちるステンドグラスの影が斜めに移動し、また暗闇に戻る。その一連の様子を空間内部で見ることができるのだ。たとえ現地に足を運んだとしても目にすることのできない、本展だけの貴重な体験だ。 マティスは、礼拝堂に関するあらゆるもの──告解室のドアや天井の照明、階段の手すりまで──をデザインした。司祭が祭式を執り行う際に着用するカズラ(上祭服)のためのマケット(試作)もだ。彼は切り紙絵の手法で約20点のカズラのマケットを制作した。本展では、そのうち5種が展示されている。このマケットから実際に、カトリック教会の典礼サイクルにしたがって6種のカズラが制作され、現在もヴァンスのロザリオ礼拝堂で着用されている。このほか、礼拝堂に関する資料やデッサン、マケットが多数展示される。