四大陸選手権で復帰!「りくりゅうペア」4ヵ月ぶりの実戦で見えた“深まる絆”と“進化への条件”
回り道を余儀なくされたが、そのぶん、ふたりの絆は深まっていた――。 フィギュアスケートのペアで「りくりゅう」の愛称で親しまれる三浦璃来(22)、木原龍一(31)ペア(ともに木下アカデミー)が2月の四大陸選手権(上海)で約4ヵ月ぶりの実戦に復帰した。 【写真】4ヵ月ぶりの実戦復帰…りくりゅうが復帰戦で見せた躍動の演技! 前回覇者として臨んだ舞台だったが、結果は2位。3月20日にカナダのモントリオールで開幕する世界選手権に向けて試合勘を取り戻すことには成功したが、課題も残った。 「準備不足は明らかだったので、最後まで滑りきれるのか、という不安のほうが大きかった。ケガなく終えられて良かった。順位、点数は(どうなっても)いいから、現状を知ろうということで出場を決めた試合だったので。もちろん、悔しい思いはしましたけど、『伸びしろいっぱいだね』ってりくちゃんと話をしています」 三浦と並んでそう語る木原の表情は、充実感と安堵に満ちていた。 昨季は国際スケート連盟(ISU)主催のグランプリ(GP)ファイナル、四大陸選手権、世界選手権という主要国際大会を全制覇する「グランドスラム」を達成。長年、日本勢にとっての弱点と言われた種目での偉業だった。 ところが、9月のオータム・クラシック後に木原は腰椎分離症と診断され、GPシリーズ、全日本選手権を回避し、治療とリハビリに専念した。連覇が懸かる世界選手権で完全復活するためには、2月中に試合に出ておきたいところ。今回の四大陸選手権に向けて、二人は急ピッチで調整していた。 「昨年12月末に『四大陸選手権をめざそう』とチームで話をして、1月の第2週からようやくペアの技を練習できるようになった。大会2週間前からショートプログラム(SP)の通しをやって、先週、初めてフリーを通せました。試合に出られるレベルにはなっていたので出る決断をしたんですけれども、フリープログラムがキツくて。コーチの方から冗談で『あまりにもキツかったら、スピンの時に止まって休憩していいよ』って言われていたので、本当に試合の途中で止まろうかと思ったくらいです」(木原) SPはアップテンポなバイオリンの音色が特徴的な『Dare You to Move』。演目に込めた思いを木原は「もう一度ここから立ち上がっていく。もう一度やるんだって。這い上がっていくイメージ」と説明する。 ふたりで揃って跳ぶ3回転トーループで三浦が2回転になるミスがあったものの、木原が三浦を持ち上げるリフトやステップは最高難度のレベル4をマーク。大きなミスは最低限にとどめて、65・61点の2位となり、目標の65点をかろうじてクリアした。 ただ、2日後のフリーはやはりブランクと調整不足を隠せなかった。セリーヌ・ディオンの歌声響く『Une chance qu’on s’a』の緩やかな曲調に乗せ、冒頭のツイストリフトは鮮やかに決めたが、その後の3連続ジャンプでミスが出ると、リフトやスピンで得点の取りこぼしも。 スタミナ切れから、後半に失速した木原は「恥ずかしい場面ばかりだった。『少しでも上の順位にいきたい』『良い点数を出したい』っていう気持ちはあったんですけど、やっぱり現実はそんなに甘くない」と息を整えるように話した。 しかし、二人に悲壮感は全くと言っていいほどなかった。フリー後、三浦はこんな打ち明け話をした。 「2日前、ショートが終わった日に龍一君のお母さんから『ケガが完治するまで待ってくれてありがとう。すごく感動したよ』って連絡をいただいて、その時、『龍一君のお母さんのために笑顔で滑ろう』って思っていました」 隣で聞いていた木原は笑顔でこう返した。 「『俺のためには滑んねえのかよ!』っていうツッコミは冗談で言ってました。ショートプログラムの前に母からそういうLINEがあって気持ちが切り替わったみたいで良かったと思います。母にも感謝したいかな」 二人の軽快な掛け合いで、取材場所のミックスゾーンは柔らかな雰囲気に包まれた。 二人の出会いは’19年7月末、名古屋市内のアイスリンク。当時17歳だった三浦が9歳年上の木原にペア結成を打診した。 ’14年ソチ、’18年平昌の両五輪にそれぞれ別のパートナーと出場した木原は、’19年4月にパートナーとの解消を発表していた。7月末、互いの技量を確認するトライアウトで三浦と組んだ木原。ツイストリフト(男性が女性を頭上に高く投げ、回転して降りてくる女性を再び受け止める技)をした際に「人ってこんなに浮くんだって雷に打たれたような感覚を味わった。もしかしたらこれは最後のチャンスかもしれない」と結成を即決した。 そして、その直感は現実になる。’22年北京冬季五輪で日本初の団体銀メダル獲得の立役者となると、昨季はタイトルを総なめ。フィギュア界の顔となった。木原のケガという初の試練にも動じることなく、りくりゅうペアはさらなる成長への糧としている。三浦は言う。 「龍一君がリハビリを頑張っている間、『あなたも一緒に強くならないといけないのよ』ってリハビリの先生に言われたんです。二人とも、メンタル面がすごく強くなったのかなって思います」 木原はこう続けた。 「どちらかが弱い方を引っ張るんじゃなくて二人で強くなりなさい、そうすればもっと強くなれるでしょ、とリハビリの先生に言われた。だから、二人して強くなりました」 四大陸選手権での合計得点は昨季マークした自己ベストを30点以上、下回った。世界選手権まで残された時間は決して多くはなく、2連覇への道のりは厳しい。しかし、木原は「今回はトランジション(技と技のつなぎ)を、わざと抜いているところも多かった。まだまだ未完成な部分が多いプログラム。技術の自信っていうのはもう確実に戻ってきていて、このまま続けていけば必ず大丈夫っていう自信はあります」と強気の姿勢を貫く。 「心・技・体」を整えた〝りくりゅう〟が、モントリオールでの世界選手権で再び輝きを放つことを願ってやまない。 取材・文:秦野大知
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