絵描き・石黒亜矢子がジャッキー・チェンを獣化!最新作『ライド・オン』に「ジャッキーファンとして感無量」
今年の4月7日に70歳を迎えたジャッキー・チェン。そのメモリアルイヤーに、映画人生の集大成といえる『ライド・オン』が5月31日(金)に公開される。本作でジャッキーが演じるのは、自身の人生を反映させた父親失格の老スタントマン。疎遠となっていた一人娘、共に寄り添い暮らしてきた愛馬との、涙あり笑いあり、そしてアクションありの娯楽大作に仕上がっている。 【写真を見る】過去作のオマージュも満載!ジャッキー愛にあふれた描き下ろしイラストがすごすぎる… そんな今作のイラストを、動物や妖怪などで独特な世界観を表現する絵描きである石黒亜矢子が描き下ろし!幼いころから無類のジャッキーファンだという石黒に、今作を鑑賞した感想から、ジャッキーを獣化させたイラストの制作秘話、長年心に留めてきた熱い想いまでをたっぷり語ってもらった。 香港映画界伝説のスタントマンと言われたルオ・ジーロン(ジャッキー)は、ケガをきっかけに第一線を退き、愛馬のチートゥと共にエキストラなどの地味な仕事をこなしながら暮らしていた。ある日、債務トラブルをきっかけにチートゥが競売にかけられる危機に陥ったルオは、疎遠になっていた一人娘のシャオバオ(リウ・ハオツン)に苦肉の策で助けを求める。そんな愛娘との関係にも溝があり、金銭的にも困っていた彼のもとに「愛馬と映画を撮ろう」という話が舞い込み、スタントマンとしての再起をかけて、昔ながらの体を張った危険なスタントにルオは挑むことになる。 ■「ジャッキーファンとしては感無量になり、一つ一つのアクションに全部感じ入りました」 ――石黒さんは、長年のジャッキーファンとのことですが、まずは主演50周年記念作である『ライド・オン』を観た感想からお聞かせください。 石黒「ものすごく泣いてしまいました。試写室であんなに泣いていたのは私くらいじゃないかな?と思いますが、それくらい個人的な感情が高まってしまって。私自身、最近はジャッキーの新作をあまり観ることができていなかったので、久しぶりにスクリーンで観て、『ああ、こんなにお年を召されている』という衝撃がありました。それでも二の腕はかつてと変わらない太さのままで、年齢を重ねてもずっと鍛え続けているといううれしさがありましたね。今回の“かつての伝説のスタントマン”という役柄が、驚くほどジャッキーと等身大で、彼の人生ともリンクしているところがすごく泣けてしまうんです。誰も泣いてないようなシーンでも、ジャッキーファンとしては感無量になり、一つ一つのアクションに全部感じ入りました」 ――確かに、改めて映画を通してジャッキーの人生を見返させてもらった感じはありますね。 石黒「そうなんです。これまでのジャッキー主演作は“ジャッキー・チェンのための映画”というものが多いですよね。今回の作品も観るまではきっとそうだろうという先入観があったんですが、一人の元スタントマンのお話として映画自体もすごくよく出来ていて。ジャッキーは、私が知らないうちにこういう感じで変化していて、アクション俳優から老年のしっかり演技ができる俳優となっていたんだと思いました。さらに、アクション俳優としての家族の絆、本当にリアルでなくてはダメだというジャッキーの信念。単なる見世物になることをやめて、本当のアクションにこだわって踏みとどまるという、そんな葛藤まで物語に入っているので、すごくいい映画でした」 ――今作は老スタントマンによる人生の振り返り、娘との失われた家族関係、愛馬との絆の3つの要素が描かれますが、どの部分に一番グッと来ましたか? 石黒「いや~、選べないですね(笑)。全部すばらしかったです。私自身、動物が好きで乗馬とか趣味にしたいくらいですし、実際に娘もいるので、どのパートも自分と重なるところがありました。さらに年齢的に涙もろくなったのか、全般的に泣いてしまいましたね。馬との別れのシーンも泣けましたし、スタントマンの引退を決める瞬間とかも思い入れがあるので胸が熱くなるし。いやもう、3つの要素が絶妙に絡みあっているので、本当に選べないです」 ――ちなみに、ジャッキー自身として重要だったのは、これまでチャレンジしたことのない「馬と共に演じる」ことだったそうです。 石黒「なるほど。確かに、いままで動物と一緒に演じる映画はあまりなかったですね。エンドロールで今作もNG集的なメイキング映像が流れますが、それのチートゥ役の馬とのやり取りを見ると、結構気の強い馬のように感じました。きっと、ジャッキーに慣れるまで大変だったんだろうなと思ったりしつつ、馬が転ぶアクションとかもあったりするので、傷ついたりしていないかとか、そこがちょっと心配になったりもしました(笑)」 ■「私たちにとっては石丸さんのあの声こそが、ジャッキー・チェンの声」 ――劇中で気に入っているシーンなどはありますか? 石黒「今作は劇中でのスタントに挑戦するシーン以外に、小規模な乱闘アクションが2か所くらいあるんですが、その両方ともよかったです。往年のジャッキー映画を彷彿とさせる、身の周りのものを使ったアクションをしっかりやっていて。あの動きは普通の70代には絶対に無理ですね。そこからもきちんと鍛えられているのがわかりました。お馴染みのテーブルや椅子を使ったアクションシーンもあって、特に娘を守るための乱闘シーンは、『ジャッキー・チェン健在!』ってなりました。大勢を相手に立ち回るシーンが一番ワクワクして、テンションが上がりましたね。そのほかにも細かいシーンだと、『ヤングマスター 師弟出馬』とか『ドランクモンキー 酔拳』のオマージュシーンあるのがいいですね!」 ――映画として、気持ちよく見終えることができるのもいいですよね。 石黒「そうなんですよ。最終的には嫌な人間が一人もいない、最後まで悪人がいない映画なのが、観ていて気持ちいいんですよね。最近だと、ちょっと観ていて描写が痛々しかったり、嫌な感じになるクセの強い映画も多いので、そういう意味では見終わったあとに気持ちよく帰ることができるような“いい映画”を久しぶりに観た感じはありました」 ――『ポリス・ストーリー 香港国際警察』や『プロジェクトA』などのジャッキー映画から、名場面がたくさん出てくるのも印象的ですよね。 石黒「劇中では、かつてスタントを務めた映像を振り返る感じになっていましたが、あそこは完全にファン目線で観ちゃいますよね(笑)。ファンへのサービスカットという感じでした。今回は吹替版で鑑賞したのですが、ずっとジャッキーの吹替えをやられてきた石丸博也さんの声がちょうどよくお歳を召されていて。いまのジャッキーにリンクしていて驚くほどピッタリでした。昔の生き生きとした感じの声が出ないのは当然ですが、逆にそれがいまのジャッキーの感じをうまく出しているように感じて、そこもすごくよかったです。声優を一度引退したのにジャッキーのために復帰する。そのくらい石丸さんにとってつながりが深いんだなと思いましたし、私たちにとっては石丸さんのあの声こそが、ジャッキー・チェンの声ですからうれしかったですね」 ■「イラストでも“龍”は大事なモチーフになっています」 ――そんな形で久しぶりにジャッキー映画に触れてテンションが上がっているなかで、今作にちなんだイラストを制作していかがでしたか? 石黒「ジャッキーの顔を凛々しく描くか、いつもの百点満点の笑顔にするかでとても悩みました。今作はアクション映画だけど、コメディがあり、馬や娘との愛情もあるので、映画全体の雰囲気としてはそんなに凛々しい映画ではないので、やっぱり柔らかい笑顔がいいのかなと思いつつ、私とジャッキーのコラボなので私の得意分野である格好いいジャッキーにすべきか。大きな悩みでしたね」 ――なるほど。確かにジャッキーと言えば、あの親しみやすい笑顔が特徴でもありますよね。 石黒「やっぱりジャッキーの絵というと、笑顔が多いんです。今回参考にしようと思って調べたところ、モンキー・パンチさんが描かれたジャッキーの顔はどれも可愛く、コミカルな感じで。『ルパン三世』の印象が強かったんですが、改めて見るとイラストレーションがとても上手な方で、しっかり描かれている。なので、モンキー・パンチさんの描くイラストのような明るさを目指したいと思っていました」 ――そうした要素に加えて、石黒さんが得意な妖怪や動物などの世界観に仕上がっていますね。 石黒「今作では『馬」が重要な役割を果たしているので、馬を龍っぽく描いて飛んでいるようにして描きたいなと考えていました。馬は龍とつながりが深いですし、やっぱり、ジャッキーは漢字で書くと『成龍』なので、イラストでも龍は大事なモチーフになっています」 ■「万人が楽しめるカンフー映画を世に送り出して広めたのがジャッキー」 ――ちなみに石黒さんはジャッキー・チェン映画と出会ったのは、いつぐらいでしょうか? 石黒「小学生の時にテレビで放送されていたものを観たのが最初だと思います。詳細には覚えていないんですが、兄が『ドランクモンキー 酔拳』や『スネーキーモンキー 蛇拳』でジャッキーにハマり、そこからテレビで放送されるとなると必ず観て、年に1回くらい映画館に映画を観に行くとなると兄の命令に従ってジャッキーの映画を観に行くという形で、そこからジャッキー漬けの生活が始まりました(笑)」 ――1980年代のころは、ジャッキーの映画も公開本数が多くて、年に3、4本くらいやっていましたね。いわゆる二番館での上映もやっていて、テレビでも頻繁に放送されていたので、観る機会も多かったです。 石黒「そうですね。地元の映画館は常にジャッキーの映画がやっていた印象がありますね(笑)。新作の公開の時にはちょっと遠くの街にある大きな映画館に行ったりして、必ず見に行っていた印象があります」 ――そんなふうに触れてきたジャッキー映画に、どのような魅力を感じていましたか? 石黒「私の夫は漫画家の伊藤潤二なんですが、年齢は夫のほうが10歳年上なんです。そして、伊藤は完全なるブルース・リーファンでして。カンフー映画の話をしていると『ジャッキーは武術としてのカンフーじゃないでしょ?』と小憎らしいことを言ってくるんですよ(笑)。でも、誰がなんと言おうと私はジャッキー派なんです。もちろんブルース・リーも大好きだし、最近だと『イップ・マン』シリーズも観ていますが、やっぱり私にとってジャッキー・チェンは別格です。カンフー映画を世界的に有名にしたのはブルース・リーかもしれないですが、万人が楽しめるカンフー映画を世に送り出して広めたのはジャッキーだと思うんです。そしてジャッキーの映画はお茶の間で観て、笑って、アクションも楽しめる。そこがすごくよかったんです。そういう明るい魅力がジャッキーにはあると思います」 ■「『ヤングマスター』はパーフェクトなジャッキー映画だなって思っています」 ――そんななかで、好きなジャッキー映画を挙げるならどの作品を選ばれますか? 石黒「『ヤングマスター 師弟出馬』と『スパルタンX』ですね。『ヤングマスター』は、いろんな意味でベストなジャッキー映画だと思っています。あの映画を撮った当時、ジャッキーは年齢的にもまだまだ若くて、でも『酔拳』や『蛇拳』を含めていろんな映画を重ねてきた経験も活かされていたように思うんです。さらに王道的物語とコメディ要素、カンフー要素が全部詰め込まれている。ある意味パーフェクトなジャッキー映画だなって思っているんです」 ――『ヤングマスター』は、ゴールデン・ハーベストに移籍後に初めてジャッキーが監督した作品で、家具や壁など周囲にあるものをいろいろと駆使した、その後のジャッキー映画のメインになる空間を利用するバトルの基礎を作った作品なんですよね。 石黒「だからジャッキーらしさをすごく感じるのかもしれないですね。ユン・ピョウも出演していて、敵キャラも含めて、とにかく全部がよかったんですよね」 ――もう一つ挙げている『スパルタンX』は、どのようなところが好きですか? 石黒「『スパルタンX』は、これまでのジャッキー映画に比べると、ポップでオシャレに感じたんです。それまでのジャッキー映画は、舞台は全部香港だったのがスペインのバロセロナが舞台になって、ヒロインも欧米の女優さんが出演されていて。ジャッキーが演じる主人公たちの住んでいるところや服装もオシャレで、職業もキッチンカーでホットドッグを売っていたりと、空気感が違っていたのがすてきでした。最後にジャッキーが戦う相手も本当の格闘家(=元アメリカのキックボクシングチャンピオンのベニー・ユキーデ)で、バトルがものすごく迫力があったし、最後に共演しているサモ・ハン・キンポーとユン・ピョウと3人で、三銃士みたいに揃い踏みするのも楽しかった。とにかく、明るくて楽しくて、おめでたい映画という感じが好きです」 ――そんな石黒さんが選ぶジャッキーのベストアクションはどれですか? 石黒「やっぱり、『ポリス・ストーリー 香港国際警察』のラストシーン。あの巨大な吹き抜けの飾りに飛びついて滑り降りるアクションですね。『ポリス・ストーリー』は、息を飲むようなアクションが多くてすごい映画だと思っています。あとは、ジャッキーらしい楽しさという意味では、『プロジェクトA』の自転車チェイスも好きですね。細道を自転車で逃げてすごいアクションをやっているのに、コメディタッチで楽しくて、途中でサドルが取れてお尻に刺さったり(笑)。笑える楽しさはジャッキーらしくて好きです」 ■「ちゃんといまのジャッキーも観ておきたい」 ――改めて、ジャッキー・チェン自身の魅力というのはどこにありますか? 石黒「それをきちんと語るのは難しいですね…。私にとっては子どものころからのスターであり、絶対的な存在なので。私と仲良くなる人は、大体ジャッキー・チェンが好きな人でした。『ジャッキー・チェンが嫌い』と言われたらまず仲良くなれないですね(笑)。私自身も口下手なので、ジャッキーの魅力をなんて言っていいのかわからないところもあるんですが、それでも今後は『ジャッキーが大好き』というのは大声で言っていきたいなと思います。『ジャッキー好き』をアピールしてきた結果、お仕事として本作のイラストを描かせてもらえるようになったので、本当にうれしいですよね」 ――今回、改めて『ライド・オン』を観てジャッキー熱が上がったかと思います。今後も、まだまだジャッキー映画が作られていくそうですが、そこに向けてはどのように思われていますか? 石黒「元気で若いジャッキーだけを記憶に留めておきたい、歳を取ったジャッキーはあまり観たくない…という気持ちがあったんですが、『ライド・オン』を観たおかげで、むしろどんどん観ていかなくちゃならないなと思いましたね。ちゃんといまのジャッキーも観ておきたい。『私たちが観ないで、誰が観るんだよ!』って(笑)」 ――『ライド・オン』は、そういう気持ちにさせてくれる映画だったわけですね。 石黒「本当にすごくいい映画でした。本当にジャッキーをすごくいい使い方で見せている、彼に対するものすごいリスペクトを感じることができました。ジャッキーを知らなくても、アクションスターが演じるスタントマンと馬の映画として楽しむことができる映画だと思います。自分も子どもに観せたいなと思うくらいいい映画だったので、ジャッキー好きだったり、アクション映画として興味がある方は楽しんでもらえると思いますので、ぜひ映画館で観ていただければと思います」 取材・文/石井誠