綾野剛は“眼差し”で全てを物語る 『MIU404』『幽☆遊☆白書』など印象的な役を振り返る
「誰かが最悪の事態になる前に止める」ために誰よりも早く事件現場に駆けつけ、初動捜査にあたる警視庁刑事部・第4機動捜査隊(Mobile Investigative Unit)の皆にまた会える。『MIU404』(TBS系)が今年も年末年始に一挙放送される。 【写真】こちらを見つめる綾野剛&星野源 一見したところ正反対かに思える“野生の勘と足の速さ”だけが取り柄の伊吹(綾野剛)と、理性的に見える志摩(星野源)。本作の魅力はなんと言っても、2人が互いの命までも預け合うほどのバディになっていく過程とその関係性にあるだろう。 自分はできる限り相手を信じたいとする伊吹と、相手のことも自分のことも全く信頼していないという志摩。単眼的で直情型の伊吹と、そのブレーキ役として配置されたはずの志摩が実は伊吹以上に危うさを孕んでいる側面もあり、その役割が時として入れ替わるのもまた興味深い。それぞれの事件の被害者や加害者が抱える事情が実に様々で一筋縄にはいかないように、当然だが彼らを追い救う側の人間もまた人間臭く複雑で、そして人知れず傷ついていることを自然と描いていた。 無邪気で無鉄砲、愛嬌たっぷりな伊吹役を好演していた綾野の他者を眼差す視線は、温かく柔らかく、そこには赦しがある。自分自身も含め、人間は誰しも間違いを犯す可能性といつだって背中合わせであることを肌でわかっている人間特有の“分け隔てのなさ”がある。そして安易に人を線引きしてしまわない慎重さがある。 映画『ヤクザと家族 The Family』でも、半端者で何者でもなかった主人公・山本が舘ひろし演じる組長に対する“何者でもなかった自分を見出してくれた”という恩義とともに、徐々に責任感が芽生え貫禄をつけ変化していくさまを、説得力を持って体現した。その姿は、彼自身がインタビュー番組で俳優を始めた頃に「初めて大人たちが自分に真剣に向き合ってくれた」と語っていた姿と重なる。 振り返ってみると、綾野は自分にとってキーパーソンとなる誰かとの出会いによって“生き直し”をする役柄を演じることが多いように思える。主人公を演じた『オールドルーキー』(TBS系)でも、予期せぬ現役引退後の自分が進むべき第2の人生を模索する元プロサッカー選手役を熱演していた。 かと思えば、綾野の鋭いイメージのある外見のスマートさがそのまま活かされているのは映画『最後まで行く』での矢崎役だろう。一糸乱れぬスーツ姿と佇まいは、自身の役目に忠実で神経質なキャラクターをイメージさせる。随所に頬の引きつりが盛り込まれるが、その違和感が悪目立ちすることなく、あくまで自然な形でのふとした違和感、僅差として矢崎の人物像を印象付けるのに非常に効果的に作用していた。その人間の周りに漂う空気感の温度までも自由に操る綾野は、声質や声の高さで全く正反対の人物を見事に演じ分ける。 Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』でも、綾野が意外な姿で登場している。戸愚呂弟役として、滝藤賢一扮する兄を肩に乗せて登場する綾野の初登場シーンはかなりインパクトがある。サングラスをつけているにもかかわらず、そこにも表情の変化が感じられる演技は必見だ。 また年明けには綾野が主人公のヤクザ役を演じる『カラオケ行こ!』の公開も控えており、『空飛ぶ広報室』(TBS系)、『MIU404』同様に野木亜紀子脚本の本作で今度はどんな“生き直し”を見せてくれるのか楽しみだ。
佳香(かこ)