河合優実インタビュー 本当に彼女は実在したんだということを凄く感じて演じた『あんのこと』
分析タイプ?
――分析タイプですね。 やってみたら分析タイプでしたね(笑) ――『由宇子の天秤』の時もそうですか。 いいえ、『由宇子の天秤』の時は動物タイプでした。何も考えてなかったです(笑)。 ――どこで変わったのですか。 いつからでしょう‥‥、時間をかけてだんだんとだと思うんですよね。デビューして5年ですが、自分がどういうタイプなのかわからないまま、演技が楽しくて色々な方法を試しながら演じていた時期から主演が増えたこともあると思うのですが、ちょうど『あんのこと』やNHKドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(2023)くらいから自分が出演する時間(シーン)が長くなりました。そうなると自分の演じ方で物語自体が大きく変わってしまうので、演技に取り組む時間が増えて、その結果タイプが定まってきたような気がします。 ――根っからの女優さんですね。冷静に分析されていくんですから。 でも現場でそれ(分析した結果)を忘れてしまう時もあるんです。その場で感じたことの方が良い場合ももちろんあるので。全部決めて役にとりかかるわけではなくって、1度考えて、あとは現場に行って感じてみるみたいなやり方です。 ――今回演じた【杏】という女の子自身の本質は、言葉では説明されませんが、物語が進むにつれ、自然と見えてきます。モデルとなった女の子は既に亡くなっているのでアプローチ方法が難しかったと思います。どうやって彼女の性格などの糸口を見つけられていったのですか。 それは稲垣吾郎さんが演じられている【桐野達樹】さんのモデルとなった記者の方に入江悠監督と一緒に3人でお話をさせて頂く時間を作って頂いて、色々と質問をさせてもらったんです。どんな子だったのかその方が知る姿を全部聞き出して、その情報をベースにしていきました。
俳優という仕事
――一番印象に残っている話は何ですか。 自分からは絶対に出てこなかったイメージで言うと「その女の子はいつもニコニコ笑っていて、大人のちょっと陰に隠れてしまうような、初めて会った人に対して照れてしまうような小学生ぐらいの女の子みたいな印象が強いですね」とお話されたことです。それは自分だけでは思いつかないイメージで、あの言葉は演じるうえでヒントになったと思います。 ――河合さんがご出演されている『ナミビアの砂漠』(2024)はカンヌ国際映画祭に出品されます。河合さんにとって本作と共にこの出来事が重なる今年は人生の転機になるのではないかと勝手に思っています。現時点でこの俳優という仕事に対して、どのような考え方を持っていますか。 入江悠監督の『あんのこと』と山中瑶子監督の『ナミビアの砂漠』が同じ年に公開されることは凄く恵まれていることです。「いつも一生懸命に演じているだけです」と言いつつも、最初の頃に知り合いになった子達(俳優仲間)の中には辞めていく子達も居るんです。そう思うとデビュー5年でここまで作品に恵まれているということは凄く幸せだし、特別だし、感謝すべきことだということを自覚していないといけないと思いました。海外の映画祭に行けることもそうですが、反響がある時に世の中に届いているという自覚を持って“続けていきたい”といつも思っています。 忙しくても気になる映画は映画館で観ている河合優実さん。最近は濱口竜介監督の『悪は存在しない』(2023)を映画館で観たそうで、ラストの解釈について気になって仕方がない、と映画の素晴らしさを讃えていました。このインタビューはカンヌ映画祭に行く前のこと。果たして『ナミビアの砂漠』(2024)チームと体験したカンヌは彼女にどんな刺激を与えたのか。それも気になりつつ、今年のベスト映画のひとつに名を残すであろう『あんのこと』で益々、彼女の演技に注目があつまると確信します。
取材・文 / 伊藤さとり(映画パーソナリティ)