「もっと汚れて、もっと困って生きてきた」そんなAFOC、15年の足跡と現在が交錯した、満員の日比谷野音
8月12日、a flood of circleが〈a flood of circleデビュー15周年記念公演 "LIVE AT 日比谷野外大音楽堂"〉を日比谷野外大音楽堂にて開催した。そのライヴの模様をレポートする。
「行けるとこまで行こう!」
8月12日。a flood of circleは〈デビュー15周年記念公演 “LIVE AT 日比谷野外大音楽堂”〉と銘打ち、10年ぶりにそのステージに立った。気象庁発表では最高気温は36度、陽が傾いてきた午後5時でも33度。緑の多い日比谷公園を通り抜けた涼風と満杯のオーディエンスの熱気が、会場に入り混じっていた。 そんな暑さの中、SEもなく、悠然とステージに現れた佐々木亮介(ヴォーカル&ギター)は、トレードマークのライダーズ・ジャケット。アオキテツ(ギター)も黒の長袖ジャケットだ。渡邊一丘(ドラム)も黒いTシャツだから、HISAYO(ベース)のノースリーブ・ドレスが目にも涼しい。佐々木が「おはようございます! a flood of circleです。Are You Ready!」とオーディエンスに声をかけギターを鳴らし、記念すべきファーストシングル「Buffalo Dance」からライヴはスタートした。 セットリストをチェックすればわかるが、この日のライヴは本編30曲、アンコール2曲で約3時間。事前に佐々木が「これまでで一番曲が多いライヴにしたいと思っている」と言った通りのスケールだ。しかもデビュー曲から始まり、ほぼ時系列に沿って曲が進み、15年にわたる彼らのヒストリーが綴られていく。まずは初期の前のめりな曲を今の彼らが演奏するのだから、若々しいパワーと15年分のスキルが共振し、オーディエンスを巻き込んでいく。 ソリッドな「博士の異常な愛情」や「Human License」、HISAYOのベースに沸いた「Blood Red Shoes」はオーディエンスとの掛け合いに熱が入り、「The Beautiful Monkeys」は唄いながらマイクスタンドを引きずって動き回る佐々木に代わり、HISAYOがセンターに立った瞬間も。ポップな「I LOVE YOU」では誰もがステップを踏み、「理由なき反抗(The Rebel Age)」は佐々木が煽るまでもなくシンガロングが広がる。たたみ込むように続けた冒頭の7曲は圧巻だった。 「I'M FREE」は10年前に彼らが初めて日比谷野音に立った時の“47都道府県制覇”ツアーのタイトルになった曲だが、そんなことに触れもせず、佐々木はクールに唄い出した。そのまま「Do you wanna R&R?」と呼びかけ「Dancing Zombiez」へ。ダイナミックなソロで盛り上げたアオキが頭上にギターを持ち上げると大きな歓声が沸く。「Ready Steady Go!」の掛け声で「GO」に突入し、「Black Eye Blues」はイントロからマイクをオーディエンスに差し出す。そして「ベストライド」では〈なけなしの命賭けて 野音までやってきた〉と歌詞をアレンジしてオーディエンスを沸かせる。 「暑いですが、アルコール分を忘れないで」と一息入れて呼びかけた佐々木も、手には緑色の緑茶割りの缶。それを呑むとアコギに持ち替え、オフマイクで「ベイビー」と唄い出したのは「月面のプール」。落ち着いたバラードでアオキが切ないソロを弾くが、どこかワイルド。ロックバンドの矜持はこういうところに現れる。アコギを抱えたまま佐々木が〈青臭さ〉についてちょっと話したのは「BLUE」の前振りだったか。この曲のあとのMCで「俺、武道館やる気なんだけど」と言った佐々木に声援が飛ぶと「OK、行けるところまで行こう!」と「花」へ。 この曲がリリースされた2015年も世界は平和とは言えなかったが、〈ここが戦場でスウィートホーム〉という歌詞が今は一層リアルで、〈命がけで生きていくだけ〉なのは少しも変わっていない。そんな想像を振り切るように佐々木は「さあ行こうぜ!」と呼びかける。「New Tribe」のイントロでアオキが一気に熱を上げるとHISAYOが跳ねた。佐々木がまた「行こうぜ野音ベイビー!」と叫んで「ミッドナイト・クローラー」に突入。オーディエンスと息のあったコール&レスポンスが小気味よく、さらに「Blood & Bones」のシンガロングで一体感が強まった。〈夜空に響け 俺たちの歌〉と響く野音。それを見下ろすように、まだ明るい空に白い半月が浮かんでいた。 唄い終えた佐々木が無言でステージから姿を消すが、ステージに残った3人は平然と音を出している。そして渡邊がドラムを離れてセンターに立ち「10年ぶりに帰って来た……暑いよ!」と叫び、ドラム・セットに戻ると、3人でのブルージーなセッションが始まる。HISAYOのどっしりとしたベース・ソロにアオキが全身で弾くギターが重なり、今の彼らならではの鳴りを響かせる。腰の据わったサウンドは、この3人を佐々木が信頼するのもうなづけるというものだ。そんなセッションが繰り広げられているステージに戻った佐々木は「オン・ドラムス渡邊一丘! オン・ベースHISAYO! オン・ギター、アオキテツ!」と嬉しそうに紹介した。 再び4人が揃ったステージ。「Lucky Lucky」は陽気なシンガロングで始まり、途中でアオキが歌を引き受けて「今日はお前らと野音で月曜だし、最高だ!」と叫ぶと、オーディエンスが歓声で応える。シンガロングに沸く「美しい悪夢」「Rollers Anthem」から、スポークンワード調の「北極星のメロディー」で落ち着かせたところで、佐々木はステージ下手にあるグランドピアノに向かった。ゆっくりとピアノを弾きながら唄い出したのは「白状」。あのMVと同じように佐々木はピアノを弾き、感情を込めて唄っていく。途中からバンドの演奏が入ると、オリジナルとはまた違ったドラマチックな演奏になった。 センターに戻った佐々木は「来てくれてありがとう」と感謝を口にすると、「この微妙な世界で、俺たちを、a flood of circleを見つけたのがイエーッて感じ」「どこまでも行けるというほど意気込んでなくて。それが最近面白くなって来た。そして今日ここに来てるってことは、行けるところまで行くってことで。俺と一緒。行こう」という、心をさらけだすようなMC。それに大きな拍手が送られ、いよいよライヴは佳境。「花降る空に不滅の歌を」「月夜の道を俺が行く」「本気で生きているのなら」と最新作からの曲が続き、佐々木の歌が一層表情豊かになった。「キャンドルソング」は〈ユラユラユラ〉と皆が唄う声に、ステージ後方の壁に映った佐々木のシルエットが揺れ、「ゴールド・ディガーズ」は思いを吐き出すように唄う佐々木を、オーディエンスの声が受け止めた。 直近のシングル曲まで辿り着き、本編を締めくくるのは、15年間、ライヴでやり続けてきた曲だった。「プシケ」は途中で佐々木が両耳に手をあてて歓声を聴きながら「2024年8月12日! 日比谷野外音楽堂にお集まりの親愛なる皆さんに、俺の大事なメンバーを紹介します!」とおなじみの挨拶から一気に熱量をあげて突っ走ると「シーガル」へ。10年前のこの場所で最後を飾った曲だ。〈明日がやってくることを知ってるから、また手を伸ばす〉と唄う佐々木に向けて、客席からも多くの手が伸びた。 アンコールに応えた佐々木は、まず、11月6日に新作を出すと宣言。だが「明後日3曲録るんですけど(歌詞は)まだ1文字も書いてない。もう才能が枯れてる。マジで枯れてからが勝負」と独白。そしてこのライヴを振り返り「全部古い曲だから、イマイチ気持ちが乗らないというか。俺の本当の気持ちかと言われると、もっと汚れてもっと困って生きて来たと思う」と愚痴と鼓舞が混じったMC。何十年も経てば若気の至りと笑い飛ばせるのだろうが、今の彼にはまだ青臭かった自分がもどかしいのだろう。そんな彼らの足跡と現在が、この日のライヴから見えた気がする。さらに、2年後日本武道館をやりたいと言い「武道館に思い入れはないんですけど、これをやらないと死ねないっていう思いだけは持ってる。勝負しますんで、来てください」と潔く言い放った。そして、この日のために書いたという新曲「虫けらの詩」を披露。荒削りなロックンロールで孤高を唄うこの曲には、まさに今の彼らの姿があった。唄い終え「じゃ、死ぬほど元気でね」と言って佐々木がアカペラで唄い出したのは「Honey Moon Song」。先ほどまで見えていた月はビルの陰に隠れたが、思いは届いたに違いない。最後に「行けるとこまで行こう!」と言って、佐々木はステージを降りた。15周年ツアーは、バンドの未来に大きな手応えを残し、幕を閉じた。 【SET LIST】 01 Buffalo Dance 02 博士の異常な愛情 03 Human License 04 Blood Red Shoes 05 The Beautiful Monkeys 06 I LOVE YOU 07 理由なき反抗 (The Rebel Age) 08 I'M FREE 09 Dancing Zombiez 10 GO 11 Black Eye Blues 12 ベストライド 13 月面のプール 14 BLUE 15 花 16 New Tribe 17 ミッドナイトクローラー 18 Blood & Bones 19 Lucky Lucky 20 美しい悪夢 21 Rollers Anthem 22 北極星のメロディー 23 白状 24 花降る空に不滅の歌を 25 月夜の道を俺が行く 26 本気で生きているのなら 27 キャンドルソング 28 ゴールド・ディガーズ 29 プシケ 30 シーガル ENCORE 01 虫けらの詩 02 Honey Moon Song
今井智子