「読売の意向には逆らえない」 ますます進む読売新聞の“テレビ支配” 地方の名物番組は消えてしまうのか
日テレの支配者は読売
背景には株の力がある。日テレHDの筆頭株主は読売新聞グループ本社で、持ち株比率は14.6%。読売新聞東京本社も6.1%所有する。読売テレビやよみうりランドなどほかの読売グループ企業も大量に日テレHDの株式を保有する。このため、読売は日テレを完全に支配できている。 新たに誕生するFYCSの株式は日テレHDが20%以上を保有し、筆頭株主となる。一方、読売新聞グループも15%以上を保有し、第2位の株主となる。 FYCSの支配者は誰か。説明するまでもないだろう。読売である。日テレHDの株式を押さえているうえ、自らもFYCS株式を大量に持つのだから。 FYCS設立のニュースが流れたあと、「他局系列も経営統合に向けて動く」という観測報道があった。しかし、実現は難しい。成し遂げられるにしてもかなり先の話になる。 他局の場合、地方局の株式を十分に持っていないからだ。10年以上前から準備を進めていた読売とは異なる。 民放キー局と地方局の関係は車のメーカーとディーラーに似ている。メーカーはディーラーに車を卸す。一方でキー局は地方局に番組を流す。キー局の地方局は全くの別会社なのだ。株式を持っていないと、どうにもならない。 日テレ系列は違った。札幌テレビの筆頭株主は日テレHD、中京テレビも同じく日テレHD、読売 テレビは読売新聞グループ本社。福岡放送は九州電力が筆頭株主だが、第2位の大株主である読売新聞グループ本社と第3位の日テレHDの株式を合わせると、九電株を大きく超える。
他局の経営統合は至難
他局はどうか。名古屋市の地方局で見てみたい。テレビ朝日系の名古屋テレビ(名古屋市)の筆頭株主はトヨタ自動車。朝日新聞とテレ朝も大株主だが、一方で読売新聞東京本社も大量に株を持っている。テレ朝主導の統合は難しい。 TBS系の中部日本放送(同)の筆頭株主は中日新聞。第2位は「タマゴボーロ」などの菓子を製造する地元企業の竹田本社。TBSは保有株式の確認すらできない。同局主導の再編は困難だ。 フジテレビ系列の東海テレビ(同)の筆頭株主は東海ラジオ。愛知県、名古屋鉄道が続く。フジの所有株は少なく、統合をやれるほどの支配力は見込めない。 認定放送持ち株会社は放送法の改正で2008年4月から許されるようになった。その改正前、日テレの氏家氏は経営統合の日が来ることを見越した発言をしている。 「経営の厳しい地方局があれば援助する体制が整い、全国ネットを維持するキー局の責任を果たせる」(氏家氏) 一方、他局はピンと来ていなかった。当時のTBS社長・井上弘氏(84)は「地方局と効率よく一緒になれるのか、やや疑問だ」と話していた。テレビ局の経営統合はなにもかも読売が先行していたのである。 そもそも読売は単独でテレビネットワークを全国展開することを前提として日テレを設立した。1953年のことだ。 当時の読売の社主・正力松太郎氏が日テレに付けた社名を見れば、全国展開を目論んでいたことが分かる。「日本テレビ放送網」。正力氏は日テレを関東だけのテレビ局にするつもりがなかった。 しかし、郵政省(現総務省)が「NHKは全国、民放は地方」という方針を打ち出したため、正力氏の構想は頓挫する。FYCSは正力氏の発想がやっと実ったものともいえる。 FYCSは番組や配信コンテンツ、アプリの共同開発が視野にある。4社の人材を適材適所で活用できるようになるから、それも可能だろう。 不安要素もある。札幌テレビの名物生情報番組「どさんこワイド179」(月~金曜午後3時48分)や福岡放送の同「めんたいワイド」(月~金曜午後3時48分)などは守られるのだろうか。地方局だからこその味わいは失われないだろうか。 全国で通用する番組の開発も大切だろうが、地方色豊かな番組も地上波の視聴者には魅力だ。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部
新潮社