【ウクライナ軍】18歳女性衛生兵が語る「最前線に行かない選択肢はなかった」 現地レポート
【現地レポート】 母親にも相談せず、大学のオンライン授業を受けながらロシア軍と戦う
11月6日の21時30分、ウクライナ東部クラマトルスクからの列車がキーウ駅に到着した。列車から降りる乗客の大部分が休暇でキーウに戻ってきた兵士たちだ。一人の若い女性がプラットフォームに降り立つと、迷彩のレインコートを着た女性が近づき、彼女を強く抱擁した。 《フォトドキュメント》ウクライナ軍「ドローン部隊」を密着撮! 東部の激戦地、リマンでメディック(衛生兵)をしている18歳のソフィアと彼女の母親でウクライナ軍将校のアーニャが会うのは数ヵ月ぶりだが、キーウで親子が一緒に過ごせる時間はたったの2日間だけ。つかの間の休暇を終えるとソフィアはリマンへ引き返し、アーニャは任務の為に東部のダヴロボーリエへと向かう。 「ロシア軍がウクライナに侵攻している今、私には最前線に行かないという選択肢はありませんでした。ウクライナ軍に入って戦うか、ロシアに占領されるかの二択しかありませんから」 そう語るソフィアは’22年2月のロシア軍のウクライナ侵攻を受けて、写真家になる夢を中断。両親には相談をせずに、メディックの道へ進んだ。3人構成の彼女のチームは72時間のシフト体制になっている。装甲を施したSUVで移動し、最前線で負傷した兵士を後方で引き受け、応急処置を施して、重傷者は近くの病院まで搬送するのが主な任務だ。 ◆最前線で法律を勉強 「以前に比べて最前線の状況は悪化しています。ロシアの進軍が進んでいて、私たちの拠点は何度も変わり、後退しています。最も悲しいことは、世界からウクライナは忘れられつつあり、孤立しているということです。戦争が始まってから3年が過ぎて、私たちは疲弊しています」(ソフィア) 戦場で特に脅威なのがドローンだ。ロシア軍のドローンがメディックの車両を優先的に狙うのは、前線で危険と隣り合わせで戦う兵士の士気に大きな影響を与えるからだ。爆弾を抱いて高速で飛行する「FPVドローン」に対しては有効な対抗策がない。11月には同じリマンで従軍するソフィアの友人が活動中にロシア軍の攻撃で亡くなっている。 「母とは頻繁に連絡を取り合って、相談に乗ってもらっています。軍人である母も前線に行きますし、お互いのやるべきことを理解しています」(同前) 最前線から5㎞の位置にある待機所で、ソフィアは待機時間を利用して大学のオンライン授業を受けていた。無線からの出動要請に耳を傾けながら、法律について学ぶソフィアの姿に私は胸が締めつけられる思いだった。 44歳の母アーニャは第411独立UAV大隊で活動している。’14年にクリミアとドンバス地方で起きたウクライナ紛争の際、両親にハルキウの病院で働くと偽り、メディックとして前線に行った。アーニャが振り返る。 「私の両親はおそらくわかっていたと思いますが、戦場に行くことに反対はしませんでした。今、自分の娘が同じようにメディックとして前線で活動しているのを見ると、私の両親もこんな気持ちだったのかなと思います。 ソフィアは多くの才能がある子なので、『戦場に行かなくても活躍の場があるというのに、どうして戦場に行かなければならないの?』と思うことがあります。自分の娘が国を守っているということを誇りに思うと同時に母として複雑な心境でもあります」 ◆生き残れたら…一番の願い 現在、ロシア軍はウクライナの支配地域を拡大している。私が取材をした東部の激戦地、ポクロフスクの前線で戦う兵士によると、ウクライナ軍では前線の歩兵の数が足りておらず、押し寄せるロシア軍をドローンで食い止めているのが現状だという。 進化を続けるロシア軍のドローン、そしてレーダーで探知できず、迎撃ができない滑空爆弾はウクライナ軍兵士にとって一番の脅威だ。 このような状況下で活動を続けるソフィアに一番の願いを聞くと、こう答えた。 「まずは生き残ることです。戦争が終わるまで生き残れたら、山の中の小さな家で自然に囲まれて犬と共に静かな生活を送りたいというのが願いです」 『FRIDAY』2024年12月27日号より 撮影・文:横田 徹
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