「川は死んだ」── 内蒙古で深刻化するゴミの山、自然への尊敬は失われた
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。同じモンゴル民族のモンゴル国は独立国家ですが、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれています。近年目覚ましい経済発展を遂げた一方で、遊牧民の生活や独自の文化、風土が失われてきました。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録するためシャッターを切り続けています。アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。 ----------
シリンゴル盟、あるいはその中心部のシリンホト市の名前は、草原を流れるシリン・ゴルという川から由来している。シリン・ゴルはこの地域の人々にとっては母なる川だ。中国4大草原の一つと呼ばれるシリン・ゴル草原を育み、遊牧文化を育んだ。モンゴルの歴史においても重要な川である。 40年前、シリンホト付近にはダムが造られ、水を貯めて、市民の飲料水に提供するようになった。私が子どもの時は、ダムの下流は、まだ深さが1メートル以上あり、よく水遊びを楽しんだ。 しかし、鉱山用水や地下水の枯渇、干ばつなどで、下流の水はどんどん減った。来日してから4年ぶりに2005年帰郷したときは、下流にはほとんど水がなかった。友人の言い方を借りると「川は死んだ」ということだった。 そして、もっと心を痛めることがあった。シリンホト政府が観光用に人工湖を造ったのだ。何回か行ってみたが、この人工湖より下流は、ほとんど水が流されていなかった。とても残念で、愚かなことだと感じた。下流が通っていた草原は先述の石炭鉱がある。
遊牧民は自然に対する尊敬や愛情を忘れ、河や山を汚し、あちこちに穴を掘り、自然を壊すようになった。特に廃棄物問題は深刻になっている。 現在は町の近くにゴミの山がたくさんあり、中には医療廃棄物も含まれている。その有毒物が風によって広範囲に拡散され、人々の健康を脅かす不安がある。特に、ビール瓶、ビニール袋など生活廃棄物は勝手に捨てられ、家畜がそれらのゴミを食べたために、消化できず、死んでしまうという被害も出ている。ゴミが町を包囲するまでになりつつある。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第6回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。