市議会中継を5千人が視聴 元銀行員市長の“見える化”政治を追ったドキュメンタリー
人口2万6千人余の広島県安芸高田市では、2019年の河井克行・案里夫妻による買収事件で市長と市議3人が辞職。20年に元銀行員で37歳(当時)の石丸伸二氏が市長に当選する。だが議員たちとの溝が深まり──。すべての自治体、国政にも通じる問題を浮かび上がらせるドキュメンタリー「#つぶやき市長と議会のオキテ」。監督の岡森吉宏さんに本作の見どころを聞いた。 【写真】この映画の写真をもっと見る * * *
報道の仕事に就きながらも政治に対する興味は周囲の20代と同じようなものでした。「自分が関わったところで変わらない」と。2020年8月に石丸市長の初登庁を取材し、「なんでも撮って大丈夫ですよ」とオープンだったので、継続的に取材を始めました。市長の4年を追いながら自分の政治への意識も大きく変わりました。
取材でまず感じたのが、政治の議論や話し合いが本当に見えないところで行われている、ということです。そんななかで石丸市長は政治の「見える化」を目指してSNSなど発信を続けます。しかし就任直後に起きた議員の居眠り疑惑を市長がツイッター(現X)でつぶやいたことを発端に、副市長公募など新たな施策を推し進めようとする市長と議会との溝はどんどん深まり、もはや建設的な議論が行われているとは言い難い状態です。ネットでは石丸市政に批判的な意見を言った議員への誹謗中傷も起きている。取材をしながら「なぜこうなってしまうんだ?」ともどかしさも感じました。
この映画は石丸市政の是非を問うものではありません。僕も市長のやり方を全肯定しようと思っているわけではない。局内でも「この議員の発言を放送すべきか」などを常に議論しながら、現状をリアルに生々しく伝えることで「いまこんなことが起きているのだ」と知るきっかけになればと考えました。それに大なり小なり同じ状況は、日本中すべての議会で起きている。決して他人事ではないのです。
いま安芸高田市議会の中継を同時接続で約5千人が観ています。近隣の市とは比較にならないほど傍聴人も多く、若い人の姿もある。「政治に少し興味を持った」「何かを変えなければいけない」という空気が生まれていると感じます。 (取材/文・中村千晶) ※AERA 2024年5月27日号
中村千晶