長渕剛【Getty Images】

コンプライアンス意識の低かった時代、映画もドラマもやりたい放題だった。暴力、過激な性描写、宗教問題、闇金…今の時代からは考えられないような描写を含むドラマが多数存在していた。中にはスポンサー降板の事態に陥る寸前の作品まであったという。そこで今回は、不適切にもほどがあるドラマをセレクトして紹介する。第1回。

『とんぼ』（1988）

放送期間：1988年10月7日～11月25日 放送時間：金曜21:00～21:54 放送局：TBS系 脚本：黒土三男 キャスト：長渕剛、仙道敦子、哀川翔、秋吉久美子、植木等、中野誠也、寺島進、大滝秀治、梅宮辰夫、石倉三郎 【作品内容】 ヤクザである主人公の小川英二（長渕剛）と、若頭として所属していた八田組との抗争を追いつつ、その中での濃密な人間関係を描いたドラマ。 【注目ポイント】 　ドラマ『家族ゲーム』（1983年・TBS系）や『親子ゲーム』（1986年・TBS系）で主人公を務めてきた長渕剛が、脚本家の黒土三男との会話から着想されたといわれている。 　主題歌の「とんぼ」は、長渕ファンならずとも、一度は聞いたことがあるであろう彼の代表曲であり、時代を超えて愛され、本作の世界観を表現した名曲だ。 　主人公の弟分として哀川翔が出演しており、本作で重要な役どころを演じ、ブレイク。本格的に俳優業に乗り出すことになる。 　長渕剛が人気絶頂だったこともあり、高視聴率を記録した本作。内容に関しても評価が高く、黒土は本作と『うさぎの休日』（NHK）によって、優れたテレビドラマの脚本家に与えられる「向田邦子賞」を受賞した。 　しかし、題材が題材なだけに致し方ない面もあるが、ヤクザ同士の喧嘩シーンをはじめ、過激な暴力シーンが数多く描かれた。とりわけ、長渕演じる英二が、ポケットに手を突っ込みながら、ガニ股気味に蹴りを食らわすシーンは“長渕キック”と呼ばれ、本作の名物だった。 　加えて、殺人や大量出血シーンなども多く、再放送どころか、当初はソフト化もされなかった。本作のソフト化が実現したのは、放送から実に31年後の2019年まで待つこととなった。