男性の終活、成人雑誌やDVDはどう処分すべきかーー2000年代アダルトメディア事情とその対策
アダルト向けの書籍やDVDをどう処分するかは、いつの時代も頭の痛い問題である。家族に見られるような形で捨てるのは避けたいし、さりとてそのへんに不法投棄するのも問題外。一昔前ならば草むらや河川敷にエロ本が捨ててある光景はさして珍しいものではなかったが、あれはこういった悩みを抱えた人々が苦肉の策で置いていったものだったのかもしれない。 【写真】国道沿いに掲げられた利根書店の看板。紳士のイラストが心強い印象だ。 それが人生の終わりを見据えた終活にも絡むとなれば、悩みは一層切実になる。自分が死んだ後に溜め込んだエロ本やアダルトDVD、その他グッズが家族の目に晒されたらと思うと、死んでも死に切れない。しかし、どう処分していいかもわからない。ネットでの検索やオンラインでの取引が苦手な人も多いだろうシニア世代にとって、こういった悩みは一際切迫したもののはずだ。 こういった悩みを解消する事業を展開しているのが、北関東を中心に出店している利根書店だ。群馬県に本社を置き、各種リユース事業をメインに手掛ける株式会社プリマベーラによって運営されている利根書店は、コミックや雑誌といった一般的な出版物から、アダルトDVD、写真集、アダルトグッズなどを扱う専門店。そのものズバリな「男のDVD」という巨大な看板を掲げており、北関東を中心に33店舗が展開されている。 「男の終活」と名付けられた利根書店の取り組みでユニークなのは、通常の中古DVD買取とは別に、匿名性の高い「処分」のコースを設けていることだ。買取金の支払いが発生する場合、個人情報の提出が必要となる。しかし、さまざまな理由から個人情報を出したくない、という利用者も多い。オンラインでの手続きを通したネット買取も可能だが、手続き自体が煩わしく使いたくないという利用者もいる。 これを解決するため、利根書店では「リサイクルボックス処分」「ネット処分」というコースを用意している。「処分」のコースでは買取金は発生しないが、個人情報は完全に守ることができ、さらにいずれの方法でも手順は非常に単純だ。 「リサイクルボックス処分」は読んで字の如し、利根書店店頭に設置されたリサイクルボックスに処分したいDVDなどを放り込むだけである。24時間いつでも受け付けている上、名前や住所などを確認されることもないため、非常に匿名性が高い。店舗が近くにある利用者にとっては、ありがたい処分方法だろう。 「ネット処分」もシンプルだ。こちらは処分したいDVDなどを適当な箱に詰め、着払いで利根書店の処分係まで送るだけ。発送依頼者の住所や名前などを書く欄は「同上」でよいと利根書店のWebサイトでも告知されており、この方法でも個人情報が知られることはない。こちらは全国どこからでも利用できる処分方法だ。 この利根書店のDVD買取本数は2015年と比較して約2.3倍(2023年のデータによる)となっており、匿名でのアダルトDVD・アダルト雑誌等の買取事業は著しい伸びを見せていることから高い需要があるのだろう。 終活を考えるような年齢の人々は、言うまでもなくシニア世代である。この世代の人々にとって、DVDは普及期から親しんできたメディアだ。一般にDVDの普及期は、各種プレイヤーが出現しPlayStation2が大ヒットした1999~2000年ごろとされる。今から25年ほど前に目新しいメディアとして広く知られるようになったDVDには、VHSに比べて圧倒的に薄く、書籍や雑誌の付録として販売できるという特徴があった。 この特徴により、アダルトDVDは単に専門店で売られただけではなく、コンビニや書店での成人向け雑誌の付録としても販売されることとなった。つまり、専門店で購入するかレンタルするかしか選択肢のなかったVHSのAVよりもずっと広い販路で、しかもレンタルという形を取らず買い切りで普及していったのである。現在70歳の高齢者も、25年前ならば45歳。この年代の人々は、普及期からDVDの形でアダルトコンテンツを利用し、そのままハマって溜め込んでいくことになったケースが多いのではないだろうか。 しかしその後、ネットの高速化とスマートフォンなどハードウェア面での進化が急速に進み、アダルトコンテンツは動画・静止画を問わずネットを介した配信が中心となった。現在の配信メインのアダルトコンテンツの形態にうまく馴染めている高齢者は、さすがに少数派だろう。多くは慣れ親しんだ紙メディア、そして映像が見たいのならばDVDという形に落ち着いていることが推測される。 つまり、「男の終活」はDVD普及期に壮年だった人々が高齢者になった、現在ならではのビジネスなのである。映像やコミックの配信が普及し、さらに素人・玄人を問わず個人でアダルトコンテンツを配信できる環境が整った現在では、わざわざ記録媒体を購入するユーザーは減ることはあっても増えることはない。現在の「DVDや紙媒体の回収」を中心とした終活ビジネスは、この先ずっと社会の中で必要とされるものではないはずだ。 もっとも、それでも人に言えない品を抱えこんでしまうのが人間である。死後のアカウント管理や溜め込んだファイルの削除、はたまたスマホやPCといったハードウェアの処理など、電子的なアダルトコンテンツについても処理サービスの需要が発生することは考えられる。今後高齢化が進む中で、また今とは違った形の「男の終活」がビジネス化される可能性は充分にあるだろう。
しげる