ラ・リーガと提携したJリーグはスペインから何を得るのか?
Jリーグは2015年秋から、ベルギーに本社を置く第三者機関に、J1及びJ2の合計40クラブの育成組織に対する監査を依頼している。「フットパス」と呼ばれる独自のシステムのもと、多角的な監査から弾き出された評価は、誕生から四半世紀を迎えようとしていたJリーグ関係者に衝撃を与えた。 「いわゆる満点が100点とすると、総合点でいうと日本の場合は40点をちょっと超えるくらいでした。ヨーロッパはそれが80点に届くなど、大きな格差があります。特に『個の育成』に関しては、日本は20点台というレベルでした」 村井チェアマンは危機感を募らせるように、ラ・リーガを理想のモデルとした理由を説明した。Jリーグへの参入条件として下部組織を傘下にもつことが義務づけられたものの、世界と比較すれば差が縮まるどころか、さらに広げられていた。次の四半世紀へ向けて、何らかの改革が必要だったわけだ。 育成には膨大な時間と資金がかかる。たとえばブンデスリーガのホームグロウン制度は、惨敗した2000年のヨーロッパ選手権が契機となって導入に動いた経緯があり、14年後のワールドカップ・ブラジル大会における、24年ぶり4度目の優勝となって花開いている。 Jリーグでも、決して育成を疎かにしていたわけではない。たとえば現在暫定首位に立っている柏レイソルは、先発11人のうち8人をアカデミー(下部組織)出身者が占める極めて稀有なメンバー編成で、第7節から破竹の8連勝を達成している。 ターニングポイントとなったのは2010年。それまで柏レイソルU‐15、同U‐18のコーチ及び監督として「ボールを大事につなぐ攻撃的なサッカー」を浸透させてきた吉田達磨氏(現ヴァンフォーレ甲府監督)が、アカデミー全体を統括するダイレクターに就任したことがきっかけだった。 吉田氏が標榜するコンセプトを、U‐12からU‐18までの全カテゴリーに所属する指導者と子どもたちとで共有。同じスタイルのもとでプレーするなかで、ボールポゼッションに長けた選手たちが続々とトップチームに昇格し、今シーズンにおける快進撃の原動力となっている。 ただ、レイソルの場合もコンセプトが統一されてから7年、それ以前に吉田氏が個人で浸透させていた時期を含めれば10年以上の時間を要している。よほどの覚悟と根気がなければできないチームの一大改革であり、なかにはチーム経営に窮してそれどころではなかったクラブもあるはずだ。 だからこそ、リーグが主導する形で育成大国スペインのノウハウを吸収する。記者会見で村井チェアマンは 「ラ・リーガの下部組織の仕組みや、育成のディテールも含めて学んでいきたい」と将来を見据えた。 手始めに今夏、育成にまでなかなか手が回らないことの多い、J3クラブの社長たちがラ・リーガを視察することが決まった。もちろん対象とするのは豪華な施設の整ったビッグクラブではなく、中堅以下のクラブとなっている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)