王者ヴィッセルが認めた町田ゼルビアの強さ 入念な対策によって弱点は見えたのか
「球際とか、かなりバチバチでしたが、そこで町田に負けるわけにはいかないと思っていました」 【画像】今年ブレイク必至の高校サッカー応援マネジャー J1リーグ第8節、FC町田ゼルビアとの試合を2-1で勝利したあと、ヴィッセル神戸の初瀬亮はそう言って笑顔を見せた。 ここまで首位を快走してきた町田を、その座から引きずり落ろした神戸は、この日のために"町田対策"を練り、周到な準備をしてきた。 町田の攻撃は、ロングボールを前線のオ・セフンに当てて、セカンドボールを拾って縦に素早く仕掛けていくパターンが主となる。対戦相手はどこもそれを理解していながら、前で起点を作られ、スピードのある平河悠や藤尾翔太らにゴールを奪われてきた。 第7節で町田に敗れた川崎フロンターレは、平河を徹底マークしたが、手薄になった逆サイドの藤本一輝に自由にやられ、対策の裏をつく戦略にしてやられた。 また、相手にとって厄介なのが、強度が高く、体を張った守備。特に先制を許すと、そのディフェンスはさらに強固となり、どこのチームもなかなか崩しきれなかった。 神戸は、そうした町田の特徴を分析。この間、町田のストロングポイントを封じ込める練習を重点的に行なってきた。その対策について、酒井高徳はこう語った。 「ロングボールに対してのポジショニングを含め、町田は(チームとしてやるべきことの)共通理解がしっかりしているので、(こちらとしては)自分を含めた最終ラインの上げ下げとチャレンジ&カバーのところで、しつこく、厳しくいかないと危なくなる。 セカンドボールの対応にしても、全体をコンパクトにして厳しくいかないと、(相手にボールを)先に拾われて前に持っていかれてしまう。そこは、かなり気を使ってやっていこうと話をしていました」
昨季王者が町田対策を入念にしてきたのは、開幕からのスタートダッシュに成功し、首位に立つほどの勢いがある町田は、対策もなしに「容易に勝てる相手ではない」という意識が強かったからだ。それに、自分たちと同じような特徴を持つチームゆえ、なおさら「負けられない」という王者のプライドもあったのだろう。 加えて、神戸は第6節でサガン鳥栖に引き分け、第7節で横浜F・マリノスに敗れ、ここを勝たなければ、ズルズルと順位を落としていきかねない状況にあった。上位争いに食らいついていくためには、何としても勝利を挙げる必要があった。 そうして神戸は、町田対策を見事に実践。オ・セフンに対しては常に誰かが競り合って自由にさせなかった。セカンドボールについても、山口蛍や扇原貴宏はもちろんのこと、山内翔や武藤嘉紀らも回収に参加。事後処理においては、チーム全体で抜かりなく行なった。 結果、町田にチャンスを作られるシーンもあったが、先制を許すことなく快勝。今後、町田と対戦するチームにとっては、大いに参考となる戦いぶりだったのではないか。 酒井も試合後、「狙いどおりに戦えた」と語る。 「町田が素早く縦に入れたり、ロングボールを蹴ってくる際に、DFラインとしては一度ラインアップして、相手FWをきってオフサイドを取る動きをやりたいと思っていました。それもできたし、対町田ということでは、トータルで見れば、自分たちのやりたいことができたかなと思います」 これまで町田と対戦してきたチームは、球際での激しさや粘り強さをはじめ、強度の高い守備に苦しめられてきた。しかし逆に、この日の神戸はその強さによって、自分たちの持ち味でもある守備の強度が引き出された格好となった。 現に山口は、「原点回帰になった」と言う。 「今日は、町田と戦えたことがよかった。ボールを保持するチームが相手だとやり方は変わってくるけど、町田は(自分たちと)同じようなスタイル。その分、セカンドボールの回収を含めて、球際で戦うとか、前に出る、後ろに戻る、ということを『より徹底してやろう』とみんなで話していたんです。 そして、今日は(みんなが)そこをサボらずにやってくれた。そうやって、自分たちのよさを出せた時は勝てる、というのが改めてわかった」 町田に勝つための戦略に特別なことはない。山口の言葉にもあるように、球際で激しく、運動量を落とさずに走り続けるという、サッカーの基本となるところで負けないこと。そこで勝負できなければ、いくら対策を立てても町田には勝てない――それを、神戸が示した。