人は怖い・グロいにひかれる 変化求める現代人には絶叫ビジネスはまる
穢れや汚れで、自分を変える
こうした怖いもの、グロテスクなもの、穢れや汚れを論じた哲学から見えてくるのは、それらが人間にとって単にストレス発散になっているだけでなく、「変化のきっかけ」になっているという点です。 この場合の変化とは、自分のキャラクターや仕事、生き方を変えることを指します。今の自分に問題を感じながら日常を過ごしていたとしても、何らかのきっかけがないと、なかなか思い切った変身はできないもの。そんなとき、人は異質なものを求めるのです。 あたかも凝り固まった心を揺さぶるかのように、そしてその勢いを借りて、人生を変えようとするのです。自分を変えるためにバンジージャンプに挑戦する人がいますが、あれに似ている気がします。 とはいえ、いきなりバンジージャンプというのはハードルが高いでしょう。もし何か変化を起こしたいなら、ホラー映画を見る程度であればもう少し気軽に試せるのではないでしょうか。 その分、変身の幅も小さくなるかもしれませんが、私たちは日常、ちょっとした変身を求めながら生きているのです。その求める度合いに合わせて、異質なものを適切に提供できれば、いいビジネスになるでしょう。いわば「絶叫ビジネス」です。 恐怖やグロテスクなもの、そして汚いものをあえてビジネスにする。それはコンプライアンス意識の高まりや、SNSによる同調圧力といった過剰な秩序の中であえぐ現代人にとって、今こそ求められるサービスであるように思えてなりません。誰しも絶叫したいのです。自分を変えるために。 哲学者のプロフィル: ジョルジュ・バタイユ(1897-1962)。フランスの思想家。非理性を重視し、西欧近代社会を象徴する理性主義の徹底的な批判を試みた。著書に『エロティシズム』などがある。 ミハイル・ミハイロビッチ・バフチン(1895-1975)。ロシアの哲学者、文芸批評家。対話主義やポリフォニー論で知られる。著書に『ドストエフスキーの詩学』などがある。 メアリ・ダグラス(1921-2007)。イタリア出身の文化人類学者。主に英国で活躍した。アフリカ研究で知られる。著書に『汚穢と禁忌』などがある。
小川 仁志