DDT上野勇希の涙のワケと「青木真也vs秋山成勲」の衝撃―「自分のすべてをさらけ出せるプロレスラーになりたい。そうでなければ誰にも見てもらえない」
上野勇希インタビュー〈後編〉
3年前、DDT大田区総合体育館大会にて、上野勇希はクリス・ブルックスを破り、DDT UNIVERSAL王座を奪取。最年少戴冠した上野は6度の防衛に成功し、最多防衛記録を樹立した。順風満帆に見えたが、「プロレスはすごいものであり、プロレスラーはすごい人である」という理想を追い求める上野が自分のプロレスに満足することはなかった。 【写真】鍛え上げられた上野勇希の肉体
「青木真也vs秋山成勲」の衝撃
2022年3月26日に行われた、アジア最大級の格闘技イベント・ONE Championshipの10周年記念大会『ONE X』シンガポール大会。青木真也と秋山成勲の因縁の対決に、上野は衝撃を受けた。 表現することにおいて、すべてをさらけ出している―。 「青木さんは怖いくらいすべてをさらけ出していて、結果は負けてしまったけど、青木さんを見て『自分が腹の中にある感情を引っ張り出さなければいけない』と思いました。僕は子どものころから脳で理解している気になって、自分の心の奥底にある感情は無視して生きてきた。そこそこ器用な上辺だけの人間だったので、自分と向き合うことはしんどかったですけど、そこからプロレスラーとして変わっていったと思います」 ほぼ同じタイミングで、竹下幸之介のアメリカ行きが決まったのも大きい。竹下不在のDDTで自分はトップに立たなければいけない。もっと自分を出して、観客に自分を理解してもらわなければいけない。根っこの部分から、よりダイレクトに表現するようになった。
両国国技館のリングで流した涙のワケ
2023年7月23日、両国国技館大会でクリス・ブルックスが火野裕士を破り、初めてKO-D無差別級王座のベルトを巻いた。クリスが最初の挑戦者に指名したのは、元DDT所属で現在フリーの入江茂弘。大会の最後、リングに集まった選手たちの中で、ひとり号泣していたのが上野だった。なぜあのとき涙したのか? 「クリスはDDTが好きで日本に移り住んで、やっとKO-D無差別級のチャンピオンになった。そんなクリスがようやく辿り着いたDDTのベルトに挑戦するのが、なんで俺じゃないんだと思ったら、泣けてきたんですよね」 上野はこれまで4度、KO-D無差別級王座に挑戦してきたが、ベルトには手が届かなかった。同王座には、並々ならぬ思いがある。 「DDTって、ヨシヒコ(人形レスラー)がいたり、ハードコアがあったり、つい笑ってしまうような試合があったりするけど、『DDTとはなんなのか?』っていうのは、やっぱりKO-D無差別にあるんですよ。それは歴史的にもそうだし、ファンの思いも無差別にある。歴史の重さを背負い、僕がDDTを体現したいという気持ちは強いです」