世界の「検閲アート」集めた美術館 スペイン
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【12月17日 AFP】世界中で検閲、撤去、展示禁止といった処分の対象となった作品を集めた私設美術館がこのほど、スペイン・バルセロナで一般公開を開始した。 「禁断アート美術館(Museum of Forbidden Art)」に展示されている42点は、カタルーニャ(Catalonia)自治州の実業家タチョ・ベネ(Tatxo Benet)氏が所有する200点に上るコレクションの一部だ。 ベネ氏は「スキャンダラスな作品や物議を醸す作品を集めているのではない。検閲、攻撃、侵害、禁止の標的とされた作品を展示している」とAFPに語った。 スペインの巨匠ゴヤ(Francisco de Goya)や米ポップアートを象徴するアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、中国の反体制派アーティスト、艾未未(アイ・ウェイウェイ、Ai Weiwei)氏といった著名な芸術家の作品もあるが、「ここにあるすべての作品に歴史がある」とベネ氏は言う。 中でも宗教を扱った作品は多い。例えば、フィンランドのアーティスト、ヤニ・レイノネン(Jani Leinonen)氏の「マックジーザス(McJesus)」は、ファストフード大手マクドナルド(McDonald)のピエロのキャラクター「ドナルド」を十字架にはりつけにした彫刻作品で、イスラエルの美術館から撤去された。 米ニューヨークのアーティスト、アンドレス・セラーノ(Andres Serrano)氏の写真には、尿に沈めた十字架が写っている。この作品は1989年に米国で初公開された際に騒動となり、フランスでは展示中に傷つけられた。 フランス系アルジェリア人アーティスト、ズリカ・ブアブデラ(Zoulikha Bouabdellah)氏の作品は、30枚のイスラム教の礼拝用マットにハイヒールが1足ずつ置かれている。2015年にフランスの展覧会で、イスラム教団体の抗議を受け撤去された。 スペインの大手メディア企業メディアプロ(Mediapro)の共同創設者であるベネ氏は、2018年にスペイン人アーティスト、サンティアゴ・シエラ(Santiago Sierra)氏による「現代スペインの政治犯」というインスタレーション作品を購入し、このコレクションを始めたという。前年に独立の是非を問う住民投票が違憲とされたカタルーニャ州の独立派指導者らの顔をモチーフにした作品だった。 ■作品の「居場所」 2001年の米同時多発攻撃後の「テロとの戦い」で、キューバ・グアンタナモ(Guantanamo)にある米軍基地の収容所に拘束された容疑者たちの絵画やスケッチも展示されている。 その中には水に沈み、上部の手と冠しか見えない自由の女神(Statue of Liberty)像の絵も含まれている。 2017年にニューヨークで開催されたグアンタナモの被収容者の作品展は物議を醸し、米政府は釈放時に美術作品を破棄するよう命じた。 ベネ氏は「誰かに阻まれ、作品を公開できないアーティストは、検閲を受けているアーティストであり、この美術館では常に居場所がある」と語った。 公開初日にドイツ・ハンブルク(Hamburg)から訪れていたコリーナ・デシャトーブールさん(56)は、携帯電話で作品情報を次々と調べていた。「驚いた。他にはない、本当に面白い展覧会だ」と語った。 スペイン人のモンセラット・イスキエルドさん(67)は「禁じられたもの、普段は見ることが許されないものを目にできるのはいいことだ」と語った。 映像は10月26日撮影。 (c)AFPBB News