【全文公開】今年の「阿部巨人」は本当に強いのか?【特別読み物】
今年のジャイアンツは何かが違う。 阪神タイガースの38年ぶりの日本一に沸いた昨シーズン。永遠のライバルである巨人はBクラスに沈んでいた。チーム打率、本塁打数ともにリーグ1位という重量打線を擁しながら、チーム防御率はリーグワースト2位の3.39と投手陣が足を引っ張った。とくにリリーフ防御率は3.81と最下位で、いくら点を取っても終盤で逆転される展開が続き、東京ドームにこだまするファンのため息は増えるばかりだった。 翻って今年はどうか。 【画像】こんな時代もあり…プライベートもイケイケな坂本勇人「美女お持ち帰り」衝撃の画像 不振の責任を取る形で監督を退いた原辰徳(65)に替わり、ヘッドコーチから阿部慎之助(45)が監督に昇格。出場機会に恵まれなかったアダム・ウォーカー(32)らを放出して高橋礼(28)、泉圭輔(27)を獲るなど、トレードやドラフトで投手を積極的に補強した。 「一部で″お友達内閣″と揶揄されていた首脳陣も一新。元木大介(52)やデーブ大久保(57)といった原の忠臣たちはユニフォームを脱ぎ、新たな打撃コーチに矢野謙次(43)、投手コーチには杉内俊哉(43)や内海哲也(41)が就任。積極的な血の入れ替えで、『脱ハラ』を球団内外にアピールしました。そんなチーム改革が奏功し、巨人は開幕から好調。昨季のような打ち勝つ野球ではなく、堅い守備と投手力で守り勝つ試合が増え、同じく好調の中日と首位争いを繰り広げています」(スポーツ紙デスクのA氏) 今季の順調な滑り出しは、実に12年も遠ざかっている日本一奪還の序章か、はたまた春の椿事か。新生ジャイアンツは強いのか? 阿部は名将なのか? FRIDAYは今回、球団関係者やプロ野球OB、選手を間近で取材している番記者たちに取材を敢行した。 「今年の巨人は強いですよ!」 自身のYouTubeチャンネルで行った順位予想でジャイアンツを1位に置いた元ロッテの野球評論家、里崎智也氏はそう即答した。 「昨年の巨人は、内野の要である坂本勇人(35)と、守護神の大勢(24)の不調に苦しめられました。しかし今年は、坂本のサード固定に成功し、大勢も球威を取り戻している。彼らが機能すれば、そもそもBクラスに入るような戦力ではないんです。今年は伸び盛りの若い選手たちも活躍していますし、プラスの判断材料が多い」 懸念は長打力不足 一方、昨年と同様に厳しい戦いになると予想する巨人OBもいる。最終成績を4位と予想し、盟友でありライバルだった江川卓氏(68)との対談で「最下位もあり得る」と語った西本聖(たかし)氏が、後輩たちへ愛のこもったムチを振るう。 「たしかに昨年よりも戦力は揃っていますが、それが嚙みあうかどうかは別の話。とくに心配なのは、長打力ですね。中田翔(34)とウォーカーの退団によって、2ケタ本塁打を計算できる野手が減ってしまった。 現状では、坂本の後釜としてショートに固定された2年目の門脇誠(23)が3番を打つケースが多いのですが、彼は長打力よりも俊足巧打がウリの選手。他球団の3番に比べると見劣りすることは否めません。本人的にも、1、2番か下位のほうが楽でしょう。3番に、一時期獲得のウワサが立っていたメジャー帰りの筒香嘉智(32・DeNA)を据えられたらピタリとハマったのですが……。ルーキーの佐々木俊輔(24)や2年目の萩尾匡也(23)ら若い外野手がどれだけ打てるかがカギとなります」 予想は正反対ながら、両氏ともポイントとして挙げたのは″若手の活躍″。たしかに今季、阿部監督は門脇や佐々木、萩尾のほか、ドラフト4位の泉口友汰(24)を開幕一軍に置くなど、20代前半の選手たちを今までになく積極的に起用している。 「阿部さんは二軍監督時代の指導の厳しさからパワハラ気質があるとウワサされており、就任前から若手はビビっていました。ところが、キャンプ中から投手には『四球を出すくらいならど真ん中でいい』と声をかけ、ルーキーの佐々木には紅白戦で『ショートゴロ打ってこい』『三振なんて全然いい』とアドバイスするなど、″失敗OK″の姿勢を打ち出した。グラウンドやベンチを縦横無尽に移動して積極的にコミュニケーションも図っていた。前任の原さんは球団内での地位が高すぎて、若手が萎縮しているなんて話をよく聞いていましたから、『巨人も変わったんだな』と思いましたよ。’02年の第一次原政権の時の監督と選手の関係に近いような気がしますね」(スポーツ紙巨人番記者のB氏) 皮肉にも、若手の躍進に一役買ったのは巨人ファンをズッコケさせたあのトラブルだった。 「長打力を買われてパドレスから移籍してきたクリーンナップ候補の外野手、ルーグネッド・オドーア(30)が二軍調整を拒否して開幕前に帰国してしまった。球団幹部からすれば大失態なのですが、これによって外野手3枠の争いが活発になった。佐々木、萩尾、オコエ瑠偉(26)、ベテランの丸佳浩(35)や梶谷隆幸(35)らによる熾烈な競争が、チームに良い緊張感をもたらしています」(球団関係者のC氏) 外野手が毎日のように入れ替わる一方、内野はガッチリと固定されている。 「昨年後半から門脇がショートに入ったことで、5番を打つ坂本を負担の少ないサードに、4番の岡本和真(27)をファーストへ移動させて打撃に集中させることができている。岡本は4月15日時点でリーグ三冠王です。セカンドの吉川尚輝(29)は打撃の調子が上がってこないものの、守備力はバツグン。誰かがケガで欠場しても、ユーティリティプレイヤーの泉口がいるので安心です。今、巨人の内野は12球団でもトップクラスに堅い」(スポーツ紙巨人担当のD氏) 昨年は大城卓三(31)でほぼ固定されていた捕手争いも、再燃している。今季1億円から3000万円(いずれも推定)への大減俸を食らったベテランの小林誠司(34)が気を吐いているのだ。 「捕手の打力を重要視していた原さんは打撃のいい大城を重用し、小林を守備固めの捕手として見ている節がありました。しかし、阿部さんは自身が打てる捕手だったにもかかわらず、全く打てなくても小林のリードや肩、リーダーシップを評価している。あるいは、原さんほど大城を評価していない、という表現が正しいかもしれません(笑)。 いずれにせよ、4月12~14日の広島戦のように、投手との相性によっては小林をスタメンで起用し、終盤の勝負所で代打・大城をコールするケースは増えるでしょう。二軍監督時代の愛弟子である山瀬慎之助(22)やパンチ力のある打撃が持ち味でムードメーカーでもある岸田行倫(27)など有望株もいるため、戦力に厚みがあります」(前出・B氏) 阿部采配の是非 とはいえ、全てが上手くいっているわけではない。新監督ならではの″慎重采配″が、批判の的となることもある。 「いくら長打力がないからといって、3番にバントをさせたり、1点を追う9回無死一塁で丸に送りバントのサインを出すなんて、さすがにガチガチすぎないか……と思ってしまいますね。今は勝っているから良いけれど、負けが込んで来ても消極的な攻撃が続いたらチームの士気が下がりますよ」(別の巨人OBのE氏) それでも”投壊状態”と揶揄された投手陣は新戦力によって活気づいている。 「ウォーカーとのトレードでソフトバンクからやってきた高橋がこれほど良い投手だとは思いませんでしたよ。開幕から3試合19イニングを投げて自責点はわずか1。与四死球も4と、課題と言われていた制球力も問題なし。エースの戸郷翔征(24)や昨季2ケタ勝利を記録した山﨑伊織(25)に加え、ここ数年はケガに苦しみ調子を落としていた菅野智之(34)も好調で、フォスター・グリフィン(28)やヨアンダー・メンデス(29)など昨季活躍した助っ人もいる。ここに堀田賢慎(22)や赤星優志(24)も食い込めば、先発ローテはさらに充実します」(スポーツ紙野球担当デスクのF氏) 課題だった救援陣に厚みを持たせたのは、ドラ1ルーキーだった。 「西舘勇陽(22)が7回の男として定着したことが大きい。特徴的な超クイック投法は、初見では対応できないでしょう。続く8回には本来、中川皓太(30)が入るはずでしたが、膝痛が原因で開幕から連続して打ち込まれ、登録抹消されてしまった。 しかし、代わりにアルベルト・バルドナード(31)が獅子奮迅の活躍を見せており、守護神の大勢も160㎞/hを連発するなど好調。7回西舘(右)→8回バルドナード(左)→9回大勢(右)の勝利の方程式が完成したのです。これにより、マシンガン継投でブルペンが疲弊することは起こりにくくなるでしょう」(前出・B氏) かつて巨人には、風神雷神とよばれた右の越智大祐(40)と左の山口鉄也(40)、そして右のマーク・クルーン(51)という勝利の方程式が存在した。彼らをリードしていた阿部監督にとって、新たな勝利の方程式の完成は感慨深いものだろう。勝ちパターンが決まれば、ワンポイントで変則サウスポー・高梨雄平(31)を左の強打者に当てるなど、戦術の幅も広がる。 若手野手の成長に、崩壊寸前だった投手陣の改革。これを就任早々に阿部監督が一気にやってのけたのか――と思いきや、ウラには投打の優秀な参謀がいた。 「杉内投手チーフコーチの『フィジカルを鍛えつつ、考え過ぎずに長所を伸ばす』という方針が奏功しています。原さん時代の投手陣は、良くも悪くもピンと張りつめていました。四球で自滅したり、逆球を打たれたりすると、ベンチから監督がスゴい形相で交代を告げに来るものだから、″交代拒否疑惑″(後に本人が誤解と弁明)が飛び出した山﨑など一部の図太い投手でなければ良いパフォーマンスを発揮できなかった。現在、ベンチからそういった空気は感じませんね。良し悪しはあるにせよ、阿部さんはのびのびとプレーさせる杉内&内海コーチコンビの方針を尊重しています」(同前) 野手陣を牽引するのは、二岡智宏ヘッド兼打撃チーフコーチ(47)だ。 「阿部さんよりも年上で、全幅の信頼を置かれている。昨年のファーム監督ですから、有望な若手を理解しており、萩尾を一軍に推薦したのも二岡さんだと言われています。彼がキーマンだと選手も気づいたのか、1.5軍の選手達の中には『二岡さんに失望されたら……』と身構える者もいるとか。そんな悩める若手選手のケアは、矢野打撃コーチが対応しているようです。一方で、二岡さんの発言権が大きすぎるあまり、今年から二軍監督に昇格した桑田真澄さん(56)の推薦が通りにくいなんて話もありますが……」(巨人番記者のG氏) 投手、野手、そしてコーチ陣。それぞれの経験と若さが融合した巨人は今年、本当に強い。この調子で進めば、悲願の日本一奪還も見えてくるはずだ。 『FRIDAY』2024年5月3日号より
FRIDAYデジタル