「緻密」キャラなのにずさんに見える「Believe」 木村拓哉が「何をやらせてもキムタク」問題から抜け出せない本当の理由
キムタク的「1軍男子」は需要減の兆し 「陰のある知的な色男」枠の奪い合い
亀梨和也さんがヒロインの相手役を務めた「Destiny」(テレビ朝日)は、初回視聴率を超える8.3%で有終の美を迎えた。さらに6月第2週の段階でTverのお気に入り登録数も110万人を突破している。同じくテレビ朝日では、永瀬廉さん主演の「東京タワー」の再生回数もドラマランキング2位に。STARTOタレントとテレビ朝日は相性が良いようである。 一方、「辞めジャニ」はフジテレビで大活躍だ。山下智久さん主演の「ブルーモーメント」は、Tverのお気に入り登録数97万人、錦戸亮さんが主人公のライバル役をいわくありげに演じる「Re:リベンジ-欲望の果てに-」も注目を浴びている。 彼らの役にある共通項は、「陰のある知的な色男」である。大切な人を失ったり、病にむしばまれたり周囲に裏切られたりする、専門分野に秀でた男たち。キムタク的「陽のオーラあふれる万能イケメン」から、「陰のある知的な色男」押しへとシフトしたようだ。 心に傷を負った悲劇のヒーロー、という設定は、事務所の事件後の空気とも重なる。山下さんや錦戸さんは、退所前に女性スキャンダルも出た。もともと錦戸さんは「色気がある」と有名だが、薄幸な役だとより光る。一方で重病人のはずなのに眉毛だけ妙にくっきり整えられた、肌つやのいい亀梨さんには笑ってしまったけれど。 そういう意味では視聴率や動画再生回数に差があろうと、木村さんと似たり寄ったりのところもあるのかもしれない。「何をやってもキムタク」と同じように、「陰のある知的な色男」演技はだいたい同じなのだ。眉間にしわを寄せて考え込むか、憂い顔でボソボソとしゃべるか、たまに脱ぐ。以上である。
「陰のある色男」が増えれば増えるほどステレオタイプの「強い女」たちも増える リアリティーの綱引きの難しさ
思えばジャニーズ時代から演技力を評価されていた人たちは、代名詞的な特技を持つ人が多い。岡田准一さんの「武術」は有名だが、二宮和也さんの「ゲーム」、香取慎吾さんや大野智さんの「絵画」。森田剛さんは「ダンス」が実にうまいが、役者になると不穏な存在感を出す。色っぽく演じようとかカッコよく見せたいといった、アイドルならではの自我だけに執着せずともいい余裕が、かえって自然な演技につながっているのではないだろうか。 視点を変えると「何をやってもキムタク」は、演技力の問題というよりは、木村さんの強すぎる演技へのこだわりや思い入れがかえって邪魔をしているのかもしれない。「Believe」での「緻密で人たらし」という主人公像は、木村さんの中で「体育会系」にそしゃくされてしまった気がする。下請け会社社長の懐に飛び込むために腕相撲を挑み、刑務所でははきはきと大声で返事をし、歯向かう相手は拳でねじ伏せる。歯磨きの位置や焼肉の焼き方のこだわりで「緻密」を表すという言い訳じみた演出はあるものの、誰も見ていないのに前転するように華麗にフェンスを降りる。そもそも「緻密」な人が、さらに罪が重くなる脱獄をするだろうか? というツッコミはさておき、木村さんフィルターを経た「緻密で人たらし」な主人公は、いつものキムタク的「やんちゃなイケメン」に着地してしまった。もはや「Believe」は社会派ドラマではなく、良くも悪くも木村さんの変わらなさに安心するためのドラマだと思う。 陽から陰へ。「熱さや若さ」から「色気」へ。演技ではなく役のバリエーションで変化をつけてきたジャニーズ出身俳優たちは、キムタク的な役には見切りをつけ、「陰のある知的な色男」に活路を見いだした。ただそれは一方で、女性共演者の役柄を縛ることにもなる。見渡せば検事だの建築家だの看護師だの、脇を固めるのは専門職役ばかり。ジャニーズ出身俳優たちが意味ありげに黙り込むたび、長ぜりふではきはきとしゃべり出すベテラン女優たちは頼もしい。が、なんだかステレオタイプの「強い女」表現だなとも思ってしまった。 それはリアリティーの綱引きというべきかもしれない。親近感あるヒロインにするならば、相手役の男性は王子様チックになる。でもジャニーズ出身俳優を主役に据え抑制的な演出にすると、典型的な「強い女」がいないと話が進まない。どちらに転んでも、話が陳腐に見える。 「何をやってもキムタク」か、「陰のある知的な色男」か。春ドラマにおける新旧ジャニーズ俳優の演技合戦は、いかに役に溺れすぎないか、ヒロインやストーリーの陳腐化をどこまで食い止めたかにかかっている。もっと言えば、最もヒロインが魅力的に見えたドラマはどれだったか、ということなのだろう。妻役を演じる天海祐希さんと、どうにもしっくりこないと批判されている木村さんは今のところ分が悪い。最終的に共演者と視聴者の間に、橋をかけることはできるのだろうか。 冨士海ネコ(ライター) デイリー新潮編集部
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