『ウィッシュ』が描いたディズニーの“原点” 歴代声優の“同窓会”はファンへの贈り物に
世界初のフルカラー長編アニメーション『白雪姫』から始まり、数々の長編アニメーション映画を世に送り出したディズニー・スタジオ。それぞれの世界観のなかで夢溢れる物語を描き出し、世界中の人々の心を掴んできたディズニー映画だが、その根底には原点となるメッセージがある。ディズニーが100年の歴史の集大成として映画『ウィッシュ』で焦点をあてたのは、それぞれの作品を繋いできた「願い」というテーマだ。 【写真】『ウィッシュ』場面カット(複数あり) ディズニーが誇る名曲「星に願いを」でも〈輝く星に 心の夢を祈れば いつか叶うでしょう〉というフレーズが美しく響く。このメッセージは、言語や住む場所に関係なく、世界中の人の心を温かく照らしてきた。この願いが人々の心をどう動かし、夢を追いかける勇気を与えるのか。映画『ウィッシュ』はディズニー・スタジオが100年をかけて紡いできた「願いの尊さ」を改めて描き出した素晴らしい一作と言える。 しかし、映画で描かれている“願い”とは、ただ漠然と自分の欲望を人智を超えた大きな存在に訴えかけることではない。映画の中で17歳の少女アーシャが暮らすのは、どんな願いも叶えられる魔法の国。国民は願いを魔法を操る国王・マグニフィコに託すことで幸福に暮らしているように見えたが、マグニフィコの真の目的は魔力を独占することにあった。 アーシャとマグニフィコの戦いから見えるものは、単に願い事をすることではなく、自分自身で夢を追いかける大切さである。願いは尊いものだが、願うだけでは叶わない。自分を信じて、自らの力で立ち上がる信念こそが、願いを叶えるために本当に必要な力なのである。 とはいえ、辛く厳しい現実の中で「自分を信じる」というのは、実はとても難しいことでもある。現実は映画のようには上手くいかない。それでもそんな毎日を生きる私たちの心のどこかで、ディズニー映画の「願い」や「祈り」は優しく光り続ける。あなたが小さい頃に観たあのディズニー作品は、さながら劇中でアーシャが出会った、光り輝く「スター」とも言えるのかもしれない。 さらに『ウィッシュ』は、100周年記念作品らしくファンへの「サプライズ」も欠かさない。映画内では、これまでの歴史を繋ぐように、ディズニーの過去作へのオマージュが溢れんばかりに盛り込まれている。 例えば、『白雪姫』の“七人のこびと”にインスパイアされたアーシャの友達7人衆や、『ズートピア』の世界観を思い起こさせる子ヤギのバレンティノの「願い」、そして過去のディズニーヴィランの要素を彷彿とさせる王マグニフィコなど、初見でもかなりの数のオマージュを発見できるはず。まるで『ウィッシュ』を原点として、さまざまな願いが各作品の世界へと世に羽ばたいていく粋な演出に心を打たれた。 ディズニープラスで配信中の『Once Upon a Studio』の特別吹替版『ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-』も劇場限定で『ウィッシュ』と同時上映されている。普段見られないキャラクター同士の交流や、異なる物語や時代を超えたキャラクターたちが一堂に会するシーンが描かれている。ドタバタと集まるキャラクターたちの、予想外のコラボレーションは贅沢としか言いようがない。今はもう劇場で見かけることのできないキャラクターたちの“日本語吹き替えでの最集結”は、「映画館ならではの付加価値」を再認識するきっかけにもなるだろう。 加えて、『ウィッシュ』の特別吹替版にカメオ出演している歴代ディズニー声優陣にも注目して欲しいところ。『アナと雪の女王』エルサ役の松たか子、『ズートピア』ジュディ役の上戸彩、さらには『塔の上のラプンツェル』ラプンツェル役の中川翔子、『ラーヤと龍の王国』ラーヤ役の吉川愛も出演……と、その華やかさはまさに100周年仕様の同窓会のよう。特に『アナと雪の女王2』のオラフ役を務めた武内駿輔演じる、カメのインパクトはぜひ劇場で体感してほしい。これらの声優陣による“豪華すぎるモブキャラ”たちの演技も、映画館でしか体験できない特別な魅力となっている。 ディズニーの次の100年を動かしていくのもまた、新たな願いの力に違いない。映画『ウィッシュ』はこれまでのディズニーの歴史の集大成とも言える作品でありながら、叶わない願いに苦しむ、“今を生きる”人々の背中をそっと押してくれる。全ての願いが叶うわけではないかもしれない。それでも諦めない少女アーシャの願いとの向き合い方こそが、100年を迎えたディズニーによる私たちへの贈り物なのではないか。
すなくじら