救急現場に密着 山形市消防の救急車出動過去最多 新システム導入で時間短縮 不要不急の通報も1割
山形放送
私たちの暮らしに身近な出来事の現場を取材しその背景や影響を探る「THE現場検証」です。熱中症の増加などでいま、救急車の出動件数は全国的に増加の一途を辿り、救急現場はひっ迫しています。こうした状況に対応しようと山形市消防本部はことし新しい救急システムを導入しました。救急現場の最前線を取材しました。 119番入電「こちら119番山形消防です。火事ですか、救急車の要請ですか?(救急車の要請です)」 119番やり取り「どなたがどうなさいましたか?(歩けない状態で意識はあるんですけど)」 一刻を争う通報者の切実な声。 119番通報提供「呼吸してますか?(今してないです。お母さん!)」 救急救命の最前線に迫ります。 山形市消防本部にある高機能消防指令センター。山形市、山辺町、中山町の1市2町からの119番通報はすべてこちらに寄せられます。 通信指令課「山形市消防本部です火事ですか?救急車の要請ですか?(救急車の要請です)」 「意識状態、呼びかけに返事をする程度。めまい、吐き気が2、3日前よりあり、本日症状悪化のため救急要請」「(山形西救急、了解)」 1日に寄せられる119番通報の件数は平均でおよそ50件。 通信指令課「いま救急車のむかう準備に入ります。どなたがどうなさいましたか?」 この通報は、病院で容体が悪化した80代の女性患者を別の総合病院に救急搬送する依頼です。 119番通報「脳梗塞疑い。では今救急車向かいます」 こうした救急車の出動は1日あたり30件から40件ほどあるといいます。山形市消防本部では通常、管内にある8台の救急車で対応しています。 搬送「心臓ドキドキするかな?大丈夫?(ドキドキする)いましない?(しない)」「風呂に入ってる時も会話は普通。脱衣所で着替えているときに口数少なくて、うなずくしかしなくなったそうです」 病院への搬送中、女性は会話が困難な状態でしたが、通報からおよそ30分で病院に到着し、大事には至りませんでした。 山形市消防本部は13年前の2011年に救急車が出動せずに山形大学の学生が死亡した問題を受け、救急業務の改善と対応の強化に取り組んできました。 こうした中、近年、救急車の出動件数は増加傾向にあります。 市消防本部によりますと、管内での救急出動件数は2年連続で過去最多を更新。去年は1年間で1万2700件に上り、ことしはそれを上回るペースだといいます。10年前のおよそ1.2倍に増えています。 救急救命課救急救命課 西村将輝課長補佐「背景には、高齢化の進展というのもありますけど、年々気温が高くなることによる熱中症患者の増加であったり、感染症もまだ広がりを見せています。さらに、救急搬送されて入院を要しない軽症の搬送というのが増えているのも影響している」 山形市消防本部では救急出動件数の増加やコロナ禍があった影響などで119番通報の受信から搬送までにかかった時間は、2014年の平均37.5分から去年は平均43.5分と10年間で6分増加しています。 8台すべての救急車が同時に出動する日も少なくないといい、現場の負担も増えているのが実情です。 ことし7月、救急搬送への迅速な対応を図ろうと、東北地方では初めてとなる新たな救急システムの運用を始めました。救急隊と医療機関をオンラインでつなぐ「救急医療情報共有システム」です。 山形市消防本部救急救命課 西村将輝課長補佐「これまでの救急のアナログだった部分を、デジタルの力に変えることによって救急隊と病院の情報共有の正確性。救急搬送の迅速化、効率化を進める狙い」 通報「山形消防から東救急2、支援情報。本人の訴えは吐き気とめまい。改善しないため、救急要請。(山形東救急2了解)」 山形市東部の住民から119番通報が入りました。救急隊員は車内や現場でタブレット端末を使い、患者の容体や症状などの情報を入力します。これまでは測定したデータは電話で口頭で医療機関に伝えていましたがー 受け入れ先の医療機関が必要とする情報が瞬時にデータ化され、オンラインで共有されます。電話連絡に比べ時間の短縮につながります。 搬送時「情報端末で送っていますが確認できましたでしょうか。受け入れも大丈夫でしょうか。ありがとうございます」 システムの導入からおよそ3か月。早くも成果が出始めているといいます。 山形市消防本部救急救命課 西村将輝課長補佐「これまで病院への連絡が9.3分かかったのが、7.3分に2分間短縮した」 今後、システムの運用を重ねていくと対応に掛かる時間のさらなる短縮も期待できるといいます。 山形市消防本部救急救命課 西村将輝課長補佐「病院の方も情報データを一元管理できるので、救急全体として考えるともっともっと効果は大きくなっていくと思う」 現在、村山地方にある6つの消防すべてでこの救急システムの試験運用が始まっていて、早ければ来年度からの運用開始を目指しています。 山形市消防本部救急救命課 西村将輝課長補佐「特に近隣消防署からは山形市に搬送してくる件数が非常に多いので、広域でこのシステムを運用することでシステムの効果はさらに大きくなっていくと感じる」 救急出動の増加に対応する新たな取り組みが進む一方、現場を悩ませているのがいわゆる「不要不急の通報」です。 119番やりとり「119番山形消防です。火事ですか、救急車の要請ですか?」 女性「すみません、ホテルに滞在しておりましてトイレに行きたいのですが、トイレが水浸しで行けない。ホテルの方に(連絡が)つながらなくて…」 消防「まず消防車、救急車はいま必要ですか?」 女性「ない、全然ないです」 消防「全然ないですか?ではやはり消防の方では対応できない」 女性「対象外ですよね。分かりました。すみません」 山形市消防本部によりますと、こうした119番通報を含め、不要不急の通報は去年、2000件を上回り過去最多となりました。こうした通報は全体の1割を占めるといいます。 山形市消防本部高機能消防指令センター 村山裕二課長補佐「実際の例として、ペットのことや、建物、水回りに関しての問い合わせなどの通報がありました。本当に必要な通報がつながらないというケースも 可能性がありますので、よろしくお願いしたいと思います」 不要不急の通報への対策として山形市は、山形市と中山町、山辺町を対象に救急車を要請するかどうか迷った場合の連絡先として「24時間健康・医療相談サービス」というダイヤルを開設しています。利用は年々増加し、去年は1日あたりおよそ65件の相談が寄せられたということですが、不要不急の119番通報も増加傾向にあるのが現状です。 課題が山積する中、1人でも多くの命を救うために救急救命の現場の奮闘が続いています。