乾燥地帯に私財を投じ、ダムを造った領主チャトラ 今では高級リゾート地に
首都デリーから南西に約500キロ。ラジャスタン州のほぼ中心にあるチャトラ・サガール。知る人ぞ知る、バードウオッチングのできる高級リゾートである。 高温で乾燥した土地にあるにもかかわらず、ここには緑に覆われた水々しい景色が広がる。19世紀の終わり、砂漠の地に雨季の水を蓄えるために建設されたダムが、生態系を一変させた。渇きに飢えていた農民たちがこの地に移住し、木々が育ち、鳥や動物も集まるようになった。
湖の堤防の上につくられたリゾートの施設はすべてテント。建造物の基礎を作らず、自然を損なわないためだ。テントとはいえ、木や大理石の家具で美しく仕上げられた広い部屋は、5つ星ホテルにも見劣りしない。 朝を告げる、うるさいほどの鳥の声に起こされ、日の出とともにテントの外に出た。橙色に染まる空の下、鏡のような湖面に群れをなして飛ぶ鳥たちの姿が映る。この一帯では200種類以上が生息しているという。 ダムをつくったのは、当時この地方の領主であったタッカー・チャトラ・シン。リゾートの名も彼から取ったものだ。巨額の建設費のために自身の財産を大きく削りながらも、「この地に水を」という一心でダムを完成させた、男気のある人物である。チャトラの残した水は、100年以上経つ今も、こうして農民たち、そして鳥や動物たちの暮らしを支え続けている。 (2010年12月撮影) ※この記事はフォトジャーナル<インドの旅>- 高橋邦典 第51回」の一部を抜粋したものです。