世界アンチドーピング機関巻き込み米中の争いが表面化する…いまだくすぶる東京五輪の火種
【7.26パリ大会開幕 徹底!実践五輪批判】 パリ五輪間近、予選会が佳境の中、国際スポーツ界はドーピング問題で大騒ぎである。 【貴重写真】体操・杉原愛子、努力の痕跡がくっきり刻まれた手のひらを見る! 発端は、東京五輪開催を控えた2021年の初頭、国内大会に参加した中国競泳選手23人からドーピング陽性反応が出たことだ。これを世界アンチドーピング機関(WADA)が不問としたことが今年4月に報道され、米国アンチドーピング機関(USADA)がWADAの責任を追及しているのである。 陽性反応はトリメタジジンへのもので、これを服用すれば血流増加、持久力増強、早期回復の可能性がある。資格停止とならなかった中国選手が東京五輪で金メダル3個を含む活躍をしたのは薬物のおかげだとUSADAは言いたいのだが、WADAは同29日にファクトシートを発表。中国アンチドーピング機関がコロナ禍でもきちんと調査を行い、宿泊先の厨房で発見された汚染物質の摂取が原因との報告を提出し、WADAが選手に過失はないことを許諾した経緯をつづった。 この報告に噛みついたUSADAは16ページにわたる反論を提示。難解であったが、要約すれば、「コロナ禍といえども陽性反応が出たら暫定的資格停止処分を科すべきで、調査資料を公表すべきである。規則を怠ったWADAは何かを隠蔽している」というものだ。 WADAは、ドーピング防止と撲滅のために、国際的反ドーピング綱領の実施と順守を監視すべく1999年に設立された。スポーツ大会が巨大化し、それまで国際オリンピック委員会の医事委員会を中心に進めてきた反ドーピング活動だけでは管理できない状況になったため、国連の協力と各国政府の参加を得て成立した。つまり、政府を前提としない限りWADAは存立しない。私はそこに機関の脆弱性を見る。ナショナリズムがはびこる余地があるからだ。 今回の騒動の根に米中の戦いが見える。米国はWADAに年間約270万ドルを出す資金最大拠出国である。しかし中国も18年から拠出金をそれまでの2倍以上の約100万ドルにした。五輪における自国選手の活躍は政府にとって超重要だ。他国選手がドーピングによって自国選手に対し有利な戦いをするのを防ぐことが各国ドーピング機関の本音となる。 今、中国の競泳選手は、直近の予選会で数々の注目すべき記録を出している。パリでの躍進が予想され、水泳王国・米国は自らの牙城を揺るがす存在になると警戒する。 クリーンな選手を守る権威としてWADAは簡単に非を認めるわけにはいかず、5月17日に最高議決機関である創設理事会を緊急開催。創設会長ディック・パウンドが「USADAは問題解決の意志に欠けている」と凄みを利かせたが、22日に米国の超党派上院議員団がWADAに書簡を送り、真相究明への圧力をかけた。 スポーツが世界に調和をもたらすのは、政治からの自律が絶対条件である。果たして政治を超えたフェアな証明ができるか? WADAは岐路に立つ。 (春日良一/五輪アナリスト)