『虎に翼』片岡凜演じる美佐江の“殺人の問い”を描いた意義 吉田恵里香に期待される重責
新潟で、少年犯罪が起こっており、それへの関与が疑われる、名士の娘・森口美佐江(片岡凜)が寅子に問いたのがこの難問だ。 「どうして悪い人からものを盗んじゃいけないのか」 「どうして自分の身体を好きに使ってはいけないのか」 「どうして人を殺しちゃいけないのか」 高校生の美佐江に突きつけられた寅子は震撼し、何も答えることができない。これから時々語り合おうと提案することしかできなかった。 美佐江の問いは、寅子と航一が、頭ではだめだと思いながら、不真面目なだらしない恋をする感情を止めることができないことと同じである。人からものを奪ったり、自分の身体を売って対価を得たり、他者を殺めることは一般的に良くないこととされているが、相手が悪かったり、どうしてもお金が必要だったりした場合、ほんとうにゆるされないことなのかーーという疑問にかられることは誰しもあるだろう。なぜ同じ人間同士が人間を監視し思いどおりにふるまうことを禁じるのか。恋なら不真面目でだらしなくてもゆるされ、盗みや殺人はゆるされないのか。そこに誰もが納得のいく理由はあるのだろうか。じつに哲学的な問題である。 これまで、男性同士の恋愛を描いた『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京)や、恋愛感情を持たない者たちの共生を描いた『恋せぬふたり』(NHK総合)のように、既成概念にとらわれない生き方を描いてきた吉田恵里香に期待される重責である。 欧米のドラマであれば、美佐江と寅子が、法律を紐解きながらディベートしそうだ。法律を題材にした朝ドラにもかかわらずそれが行われなかったことがすこし残念であったが、まだ1カ月半あるので、終盤、そういう機会があることに期待したい。 恋という概念をよく知らなかった寅子が一歩世界を広げたことによって、彼女の裁きに深みが生まれていってほしい。
木俣冬