イギリスだけではなかった 千代田区も東京23区からの離脱を画策
乗り越えなければならないハードル 特別区が市になる法律存在せず
“千代田市構想”を実現するために、千代田区が乗り越えなければならないハードルは、いくつかあります。 まず、町村が市になるためには、人口5万人以上という条件を満たさなければなりません。“千代田市”宣言をした当時、区の人口は5万人に足りていませんでした。そもそも、千代田区が市になることはできなかったのです。 ところが、都心回帰の風潮もあって千代田区の人口は増加。現在の人口は5万人を突破し、条件をクリアしたのです。 こうなると、“千代田市構想”の議論は本格化するかのように思えますが、議論は活性化していません。なぜなら、人口5万人というのは、あくまでも町村が市になるためにクリアしなければならない条件だからです。特別区が市になるための法律は存在せず、現行法下では千代田区のみならず23特別区が市に昇格することはできないのです。 そのため、イギリスで実施されたEUから離脱の是非を問う国民投票のような、“千代田市”の是非を問う住民投票が実施されたことはありません。
自治権拡充求める港区・世田谷区とも連携
また、仮に“千代田市”になった場合、まったくデメリットがないわけではありません。現在、千代田区はゴミ処理などの清掃事業を23区で組織する事務組合に委託しています。“千代田市”になれば、清掃事業を自分たちでやる必要性が出てきます。消防事業に関しても同様です。 現在、千代田区は清掃について、一部事務組合をつくって委託しています。千代田市になっても一部事務組合に委託することは可能ですが、市になれば再協議する必要が生じます。 さらに“千代田市”になれば固定資産税などが自主財源になる一方で、その評価と算定は自分たちで担当しなければなりません。固定資産税の評価と算定は、難解な作業です。そのため、各地の市町村では過徴収といったミスが絶えず起きています。現状の千代田区は、これらを担当する職員がいません。職員数を増やしても、ノウハウは簡単には培えませんから混乱が起きることも予想されます。 それでも、千代田区は特別区という“半人前”から脱しようと、港区や世田谷区といった自治権の拡充を求めている自治体と連携を深めています。 15年目を迎えた“千代田市構想”は、実現に向けて少しずつ歩を進めています。 小川裕夫=フリーランスライター