ウクライナ戦争が生んだ「ドローンエース」空戦の真実
ウクライナ戦争で無人機(ドローン)が使われ始めてから、この空戦は第一次世界大戦の複葉機と同じように進化した。それは、まずR偵察、次にB爆撃、その次にA攻撃。そして次に現れたのは、それらドローンを撃墜するF戦闘機である。 Fドローンは相手に激突自爆撃墜するものから、網を垂らして捕獲するタイプまで色々と出現した。詳細は過去の記事でも紹介しているが、ドローンの進化によってその戦術も飛躍的に進歩したのだ。 第一次大戦のF戦闘機は、5機撃墜するとパイロットはエースになれた。そして、100年後の21世紀の今、ドローンエースが誕生したのだ。 * * * ウクライナ軍(以下、ウ軍)が奪還を試みる南部へルソンの前線では、ウ軍がドニエプロ川を渡河(とか)し、左岸に対ドローン電子要塞を築いた。そのウ軍陣地は報道では今も健在だ。 しかし、その要塞へ兵員や兵站を補給するためには、川をボートで渡河しなければならない。そこにふたりのドローンエースが生誕したのだ。 ロシア軍(以下、露軍)に現れたドローンエースは、モイセイ。ウクライナのボート31隻、兵士398人を撃破するという戦果をあげた。そして、そのモイセイを仕留めたのが、ウクライナ軍のドローンエースのバルだ。 このエース同士にどんな空戦があったのか、考察を試みた。 まず、ウ軍は河川上空に飛来するモイセイのドローンを探知しなければならない。モイセイが自律型ドローンを使っていれば、電波探知は不可能だ。 しかし、河川ボート攻撃には自爆型FPVドローンを用いている。つまり、モイセイからそのFPVを操縦する電波が発せられ、ドローンからはカメラで撮られた動画がリアルタイムでモイセイに送られている。そのため、電波探知は可能だ。 世界各地でドローンの取材を続けるフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう語る。 「据え置き型のドローン探知装置は車両で運搬する必要があり、露軍に上空から狙われる可能性があります。 なので、最初にウクライナ軍兵士が携帯型の探知装置を使用。その後、高性能の据え置き型を複数の兵士が現地で組立て、設置し、カモフラージュなどの偽装をしたと推定します」 そこでウ軍特殊部隊(SF)の出番だ。背負い式の探知装置を装備したSF兵士が、右岸の様々な所に忍びドローン電波を探る。そして「ドローンフィード」と言われるドローンの電波を集める作業を開始する。続いて、モイセイが操っているであろうドローンの電波を探知した場所に、高性能の据え置き型探知装置を設置する。周囲に溶け込むように隠蔽して置くのだ。航空自衛隊那覇基地302飛行隊隊長を務めた元空将補の杉山政樹氏は、この電波戦を戦闘機パイロットの立場からこう語る。