「いっそ2人であの世に行こうか」妻の介護を40年続けた夫は、最後に海に突き落とした 周囲にサポートを求めず、なぜ1人で背負い込んだのか
「(秋子さんが)いないことでさみしくなった」 この時は妻を施設から強引に退所させている。 ▽施設入所に前向きな妻、長男の説得も拒む 自力での介護は限界だが、妻がいない寂しさにも耐えられない。男はいつしか「あの世に2人で行ってしまおうか」と無理心中を考えるようになっていた。 ある深夜、秋子さんの排泄介助がうまくいかず、ふと背後から妻の首を絞めた。自分の手で殺すことができるのか、試すつもりだったという。秋子さんが「何をするのよ」と言うまでの、ほんの2~3秒の出来事だった。ただ、それ以外にも、頬を叩くなどの暴力もしていたとみられる。 長男はデイサービスの職員から話を聞き、父親の異変を知った。危機感を抱いた長男は、父を母から引き離そうと、ケアマネジャーに頼んで秋子さんを預けられる施設を探し始めた。秋子さんも入所に前向きだったが、父親は「自分で面倒を見る」とかたくなに言い続ける。長男が必死に説得し、一時的には納得しても、時間が少し経つと翻意することを繰り返した。
▽「いやだ」叫ぶ妻を突き落とし… そして2022年11月2日、長男は「母を預けられる施設が見つかり、入所のための面接の予定が入った」と父に知らせた。しかし、その日の夕方4時ごろ、父は秋子さんを車いすに乗せ、自宅を出た。心中するつもりだったという。妻には「長男が海で話があると言っている」とうそをつき、港へ連れ出した。 岸壁でいぶかしむ秋子さんの車いすを、いきなり後ろから押した。その瞬間、秋子さんは「いやだ!」と叫んだが、そのまま海にザブンと落ち、車いすごと沈んでいったという。 男が海をしばらく見つめていると「羽織っていたジャンパーだけ浮かんできた」。自分は結局、死を思いとどまり車で帰宅。犯行を打ち明けられた長男が警察に通報し、翌3日に逮捕された。一方、秋子さんは「海に人が浮いている」という目撃者の通報を受け、駆け付けた消防隊員が救助したものの、搬送先で死亡が確認された。 ▽「生きている限りおわび」と悔やむ