「不適切にもほどがある!」本日最終回「ふてほどロス」にどっぷり浸れるベストスポット@代々木
TBS系ドラマ「不適切にもほどがある!」が話題だ。バブル期直前の1986年と2024年を昭和の価値観に凝り固まった昭和の体育教師(阿部サダヲ)が行き来し、両方の世界を引っかき回す、宮藤官九郎脚本の「意識低い系タイムスリップコメディ」。働く女性の描き方などに違和感を訴える声が上がる一方、週刊誌が「適切な楽しみ方」を記事にしたり、ドラマに登場する昭和っぽいファッションやアイテムを懐かしむ声があがったり。3月29日の最終回を前に、「ふてほどロス」が心配されているほどだ。 3月20日発売の書籍『TOKYOレトロ探訪 後世に残したい昭和の情景』が、「ふてほどロス」にどっぷり浸れるベストスポットをルポしている。昭和歌謡と懐かしグッズが所狭しと並ぶ東京・代々木の「代々木ミルクホール本店」だ。本から引用して、紹介したい。 *** 「洒落れている」という表現は奥が深い。格好がいいとか、垢抜けているとか、魅力的だという意味でも使われる。東京・代々木にある「代々木ミルクホール本店」は、まさに「洒落た」居酒屋と言えるだろう。いたる所に、昭和を匂わせるモノや仕掛けが施されていてゾクゾクするほど楽しい酒場なのだ。 入り口の引き戸を開けると、正面に鎮座するのがジュークボックスだ。 「当時のアイドルの『デビュー曲』が入っています」と説明するのは店長の富永沙里さん。ヒット曲ではなくデビュー曲というのがミソだ。しかも、メニューと一緒にそのリストまで用意されていて、眺めているだけでも面白い。 デビュー曲とヒット曲は、必ずしも一緒ではない。そのことを再び思い起こさせてくれ、新鮮な気持ちになる。例えば、松田聖子といえば、初期のヒット曲は「青い珊瑚礁」や「風は秋色」などを思い浮かべる人も多いと思うが、デビュー曲は「裸足の季節」である。逆にいえば、デビュー曲を改めて確認できるのだ。
中に入ると、U字型のカウンターを囲む壁一面には、アイドルのシングル盤が整然と並ぶ。「目線のいきそうな高さには、有名どころが並んでいますが、基本的にはランダムです」と富永さん。この情景は圧巻である。しかもジャケットだけでなく盤自体も入っているというところに、経営者の本気度がうかがえる。 店の電話番号の下4ケタが「6700」というのもニクい。読み方は「シックス・セブン・オー・オー」。「ハロー、ダーリン」という妙子の声から始まる、あの「フィンガー5」の名曲「恋のダイヤル6700」をさりげなく忍び込ませてあるのだ。カウンターの一番奥と途中の角に設置された2台のテレビからは、「8時だョ!全員集合」「鉄腕アトム」「ど根性ガエル」など、昭和を代表する映像が次々に流れる。それらを肴に一杯飲やるのも悪くない。 カウンターには、昭和ならではのグッズも飾られている。実際に使っていた世代なら、そこから会話も弾むだろう。南沙織のシングルレコードがつるされているが、彼女は沖縄女性の美しさを全国に知らしめた最初の歌手だった。かの吉田拓郎もファンで、あだ名だった「シンシア」というタイトルで曲を書いた。ピンク・レディーの写真も、当時の歌謡界の盛り上がりを、改めて思い起こさせてくれる。 さらに、小学生の遠足の定番だったタータンチェックの丸い水筒。毎日の給食も楽しみだったが、芝生の上に座って食べた弁当のおいしさは格別だった。どこの家庭にもあった花柄のキッチン用品も遠い記憶の中に残っている。鍋は、母親が作ってくれた煮物の味の懐かしさを思い出させるし、魔法瓶の柄も同じような花で飾られていた。「あの魔法瓶は、祖父の家にありました。私にとっても懐かしい感じです」。1990(平成)年生まれの富永さんが、笑顔を見せた。「店内は最初、もっとシンプルでしたが、だんだんモノが増えていき、途中からはあえて雑然とした感じを出すようになりました」(富永さん)。