Xから「いいね」欄が消えた日──我々は高度なコミュニケーションを行っていたのかもしれない
人間の陰の部分を仄めかすことができる「いいね」
そんな人間の積極的に表には出そうとしない、陰の部分を含んだ「いいね」を、私たちはインターネットの公共空間に、晒し続けてきた。 その性質もあいまって、「いいね」欄を見たユーザーは、隠れた趣味嗜好や思想、あるいは政治的立場が現れているのではないかと、どうしても考えてしまう。どういう意味や意図で「いいね」したのかは、本人にしか分からないのにも関わらず(※)。 (みなさんは、知り合いのXの「いいね」を見て、何らかしらの意味や意図を深読みした経験はないだろうか) 「いいね」を通して、私たちは虚々実々に、暗に、メッセージを発し続けてきた。「〇〇さんがいいねしました」と、他人のタイムラインに表示する仕様は、他のユーザーの陰の部分を暴露してきた。 (※)なお、特殊で一般化できない事例ではあるものの、日本では「いいね」を巡って名誉毀損が裁判で認められたこともある。
我々は高度なコミュニケーションをXで行っていた
もちろん、その構造を自覚しているXユーザーは多い。 私たちは、第三者にどう思われるかを常に意識し「いいね」を付けざるをえなかった(第三者へのアピールとして、「いいね」を付けてきたとも言える)。逆に、他のユーザーの裏の顔を探るべく、「いいね」欄を漁っていた人もいるかもしれない。 「いいね」欄は、私たちにとって、実はとても高度なコミュニケーション手段であった。 なお、X社のエンジニアリングディレクターであるHaofei Wangさんも、今回の「いいね」の非公開化に際して「荒らしからの報復を恐れたり、自分のイメージを守るために、“過激”かもしれないコンテンツにいいねするのをためらう人はたくさんいます」と指摘している。 再び変容する、Xというコミュニケーション空間 今回の仕様変更を受け、X社のオーナーであるイーロン・マスクさんは、投稿への「いいね」数が激増したと報告した。 「いいね」の数は、投稿がおすすめタブにレコメンドされるか否かにも影響してくる。これは筆者の体感でしかないのだが、「いいね」欄が非公開になってから、タイムラインに上がってくる投稿の傾向が変わったようにも感じている。 Haofei Wangさんが指摘したように、これまで第三者の目を気にして「いいね」してこなかった投稿がより「いいね」されるようになったということだろうか(ポルノコンテンツや極端な投稿が「いいね」されやすくなるのは想像できる)。 Xというコミュニケーション空間は、再び変容しようとしている。 寂しい気持ちがないわけではない。しかし、私は(だから先んじて「いいね」欄を非公開にしていたのだが……)今回の変更を悪くないと思っている。 ただでさえXは、文字数の制限や不特定多数に届きうるといった点から、意味や意図が曲解されやすい。高度なコミュニケーションは、やはり難しい。 「いいね」をした投稿の相手だけならともかく、第三者に対しても、自分の「いいね」の意味が意図していたとおり伝わっていたとは、到底思えない。
都築 陵佑