あの大御所俳優が告白「先生、ぼく認知症みたいなんですが、どうすればいいでしょう?」
『白い巨塔』('78年)をはじめ、テレビドラマや映画、舞台で活躍してきた俳優の山本學さん(87歳)が一昨年、「軽度認知障害」と診断された。受診のきっかけは「幻視」が見えたことだったという。いったい山本さんにはいま世界がどのように見えているのか。そして病について、これからの人生についてどのように考えているのか。山本さんの主治医で認知症治療の権威である朝田隆先生と対談してもらった。 【写真】「浮くうんち」と「沈むうんち」ではどっちが健康? 山本學(俳優)× 朝田隆(認知症専門医) ---------- やまもと・がく/'37年大阪府生まれ。俳優座養成所を経て、'59年劇団新人会に所属。舞台『雁金屋草紙』『晩菊』で第18回菊田一夫演劇賞受賞。テレビや映画でも活躍 ---------- ---------- あさだ・たかし/'55年島根県生まれ。東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会理事長。アルツハイマー病を中心に認知症の基礎と臨床に携わる ----------
突然、壁に迷路みたいな図形があらわれた
朝田 山本さんが初めてうちのクリニックにいらしたのは、おととしの4月でしたね。ドラマ『白い巨塔』('78年)で、田宮二郎さん演じる外科医・財前五郎のライバルである内科医の里見脩二役が印象に残っていましたから、「あの先生がいらっしゃるのか」と背筋が伸びました(笑)。 山本 ドラマを見た方から時々、「先生」と呼ばれることがあるんですよ(笑)。僕は「お茶の水に素晴らしい認知症の専門医がいらっしゃる」と人に紹介されて、朝田先生のもとを訪れました。 受診のきっかけは幻視の症状が出たことでした。壁に迷路みたいな図形や幾何学模様が見えて、でも触ってみると何もない。それですぐに「これはレビー小体型認知症の症状では」と疑ったんです。父が晩年、認知症を患っていたこともあり、僕も自分で勉強していたものですから。
「まあいいか」「やめておこう」が増えていく
朝田 検査の結果、レビー小体型ではなく、アルツハイマー型認知症の初期であることがわかりました。それで軽度認知障害(MCI)と診断を出しました。まだ日常生活には大きな問題がない状態で、いわゆる「認知症の予備軍」です。 診断を聞くとショックを受ける方もいらっしゃいますが、山本さんは飄々としていましたね。 山本 認知症だって生理的な現象、脳の現象だから、ジタバタしてもしょうがない。 それでもやっぱり落ち込むことはありますよ。たとえば、それまでスラスラ書けていた漢字が思い出せなくなる。「マズイな」と思って、辞書を引く。それがしょっちゅうになってくるんですよ。そうすると不安になって、ますます出てこなくなる。 朝田 健常者でもパニックになれば、思い出しにくくなりますからね。 山本 そうなんです。でも自分ではパニックになっている自覚がないから落ち込んでしまう。ああ、ボケちゃったんだなって。それでいろんなことをやるのが面倒になってくる。 朝田 認知症は「怠ける病気」とも言われます。いろんなことをするのが億劫になって、「まあいいか」「やめておこう」が増えていく。 「知・情・意」という言葉がありますが、認知症はこのすべてに関わる病気です。でも記憶力の低下など、知性の面ばかりに焦点があたっている。本当は意欲の低下なども深刻な問題なのです。 でも山本さんは今でも旺盛に仕事を続けておられますよね。