「たった数十人がすべてを救う」山中伸弥が明かす、iPS細胞が持つ驚きの「秘密」
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第11回 『「健康な人間」を「作れてしまう」ゲノム編集…天才科学者・山中伸弥が恐れる「深刻すぎる」未来』より続く
iPS細胞の理想像
羽生 iPS細胞は自分の細胞から作ると、コストや期間が相当かかると聞きました。これは技術的なブレイクスルーで解消できるのでしょうか。 山中 そうですね。理想を言うと、フルオーダーと言うか、一人ひとりの患者さんからiPS細胞を作って、その人専用に使うのがいちばんです。でもスーツを作るときもフルオーダーだと時間がかかるように、iPS細胞から移植に必要な細胞を作るためには、今のところ、半年から一年はかかります。 さらにフルオーダーの場合、莫大な費用がかかります。iPS細胞の場合は何千万円という額になってしまいます。一人二人ならばまだしも、僕たちは何万人もの方に使える治療にしたいと考えています。だから現段階では、患者さんご自身のiPS細胞を作るフルオーダーは現実的ではないと考えています。 羽生 そうすると、患者さんご本人以外の方からiPS細胞を作っておく。
iPS細胞の「イージーオーダー」
山中 はい。品質確認をした後に凍結保存しておき、必要に応じて分化させて使う。これだと時間も費用もかなり節約できます。ところが、こうしてストックしたiPS細胞は患者さん自身の細胞ではないので、移植する際には拒絶反応の問題が生じます。人によって異なる免疫のタイプを合わせないと、拒絶反応が起こってしまうんです。だから、いろいろな免疫のタイプを揃えておこうという、いわばイージーオーダーに近い発想ですね。 でもHLA(ヒト白血球抗原)という免疫のタイプは実は数万種類もあって、すべて揃えるのはかなり難しいのが実態です。ところが、他人に移植してもあまり拒絶が起こらないような、非常に好都合な免疫のタイプ「HLA型ホモ」を持っておられる方が、千人に約一人の割合でおられるんです。 羽生 ABO式の血液型で、他のどの血液型の人にも輸血できるO型のようなタイプ。 山中 はい。僕たちは「スーパードナー」と呼んでいるんですけれども、そういう方々を見つけて、その方の細胞からiPS細胞を作ってストックしておくわけです。スーパードナーを十人ほど見つけて、そのiPS細胞を作ったら、日本人の約半分がカバーできることがわかっています。CiRAではできるだけ多くのスーパードナーの方からiPS細胞を作って、いつでも使えるようにする計画を進めています。 羽生 HLAというのは、骨髄移植などの時に合致するかどうかが問われるものですね。