アングル:脱線と誇張と虚偽話、最終盤のトランプ氏演説一段と奔放に
James Oliphant [グリーンズボロ(米ノースカロライナ州) 27日 ロイター] - 11月5日に米大統領選が迫る中、共和党候補のトランプ前大統領の選挙集会での発言が一段と奔放になっている。一部の政治評論家からは選挙演説のせいでトランプ氏が民主党候補のハリス副大統領に貴重な票を奪われかねないという指摘も出ている 自身にとって連続3回目となる選挙活動が終わりに近づいたある日、トランプ氏は激戦州ノースカロライナで開いた選挙集会で、水素エンジン車の爆発に思いを馳せ、石灰岩に吹き付けられたスプレー式塗料を剥がすのがいかに難しいか嘆き、大富豪イーロン・マスク氏のロケットが無事に地球に帰還したことへの感動を表明した。 また、ハリス氏は自分はより努力が足りないと批判し、中国の習近平国家主席を「猛烈な」人物だと賞賛し、民主党のオバマ元大統領を「実に嫌なヤツ」とこき下ろした。 トランプ氏の側近らは、この集会を経済中心のイベントと告知していたが、経済は単に話のマクラにすぎなかった。 今回の大統領選は、米国史上でも最も激しい争いになる可能性がある。世論調査によれば情勢は非常に拮抗しており、いくつかの激戦州における数千票が勝敗を分ける公算が高い。 ハリス陣営は選挙戦最終盤のいま、トランプ候補を「不安定」で「タガが外れている」と批判。ハリス氏自身もこの2つの言葉を使う機会が増えており、トランプ氏の支離滅裂な発言は大統領にふさわしくないことの証拠だと指摘している。 トランプ氏は自分のまとまりのない演説について、さまざまな要素を取り込んだ「織物」であると弁解し、常に最初の論点に立ち戻っていると主張する。支持者らも、台本にこだわらないスタイルが同候補の魅力だと話す。 「トランプ氏独自の『織物』は、ハリス氏が失敗を重ねたこの4年間から、一般的な米国民が気持ちを切り替えられるよう、重要なストーリーを伝え、政策を説明するうえで、素晴らしい手法だ」と、トランプ陣営の広報担当スティーブン・チュン氏は説明する。 トランプ陣営の集会で、気まぐれや奇妙な脱線が見られるのはいつものことだ。だが投票日が近づくにつれ、トランプ候補はかつてのホワイトハウスでのエピソードを語ったり、故人のスポーツ選手の性器の大きさを口にしたり、気が向くままに貴重な時間を消費することで満足しているように見える。 24日にはラスベスガスで、「オバマはノーベル賞をもらった」と切り出した。「彼は自分がその賞をもらった理由すら理解しなかったし、今も分かっていない。彼は大統領に当選して、ノーベル賞獲得が発表された。私はもっと大きく優れた、とんでもない選挙に勝利したのに、ノーベル賞をもらったのはオバマだ」 どの集会を見てもまったく一緒ということはないが、一貫しているのは、4年足らずのあいだに民主党が米国をディストピア国家に変貌させたという根拠なき主張だ。 トランプ氏は政治的なライバルを「内なる敵」と糾弾し、発言の端々に、若い女性が殺害され強姦されているというどぎつい描写や、暴力的なギャングが小さな街を占領しているといった虚偽の話や、移民が盗んだペットを食べているという、誤りであることが証明された主張を続けている。 トランプ氏はアリゾナ州で、「我々は世界のゴミ捨て場のようなものだ」と嘆いてみせた。 側近らによれば、演説のペースや時間についてはトランプ氏任せで、コントロールは試みていないという。ポッドキャストのように、居心地良くダラダラと話をでき、質問の嵐にさらされることのない発言媒体にも登場させている。 25日、ポッドキャスト主催者のジョー・ローガン氏による長時間のインタビューの中で、トランプ氏は火星には生物がいるかもしれないと発言した。ローガン氏も指摘したが、調査では何の痕跡も見つかっていない。 またトランプ氏は、発電用風車がクジラに悪影響を与えていると主張した。米海洋大気局は、クジラの大量死と操業中の洋上風力発電事業とのあいだの関係は確認されていないと述べている。 「自分はクジラの精神科医になりたい」と、トランプ氏は言った。 <余裕のないスケジュール> 投票日が迫る中で、トランプ氏はますます余裕のない運動日程を組んでいる。先週は選挙の行方を決定づける可能性の高い7州のうち6州でイベントを開催した。 国境警備と犯罪に関する話題が主だったが、トランプ氏は常に、歯止めのない誇張を織り交ぜるチャンスを見つけた。 23日にはジョージア州ダルースで、シャンパンをめぐるフランスとの貿易紛争を自分がいかに回避したか、長口舌を振るった。話があまりにも長かったため、聴衆の多くは席を立ち始めた。 最近のトランプ氏は、当選した場合の施政方針とは関係のないところでメディアを騒がせている。 ある集会ではトランプ氏の突然の思いつきでダンスパーティーが始まり、ステージ上で40分近くもお気に入りの曲にあわせて身体を揺らした。ゴルフ選手の故アーノルド・パーマー氏の性器のサイズについての噂話も披露した。 バンダービルト大学の世論調査専門家ジョン・ギーア氏は、トランプ氏の演説は、岩盤支持層だけをターゲットにしている、と語る。 「トランプ氏は、たとえ一貫性がなくても自分が言うことは基盤支持層に受けると考えている」とギーア氏は言う。「支持層を広げたいと願っているなら、支離滅裂な論調にはならないはずだ」 ノースカロライナ州グリーンズボロで先週、約7500人の聴衆を前に開いた選挙集会でのトランプ氏が、まさに象徴的だった。 国境警備問題やハリス氏批判をひとしきり繰り広げた後、トランプ氏は今月初めに「非常に重要な男性」との電話の最中に、マスク氏が率いる米宇宙開発企業スペースXのロケットが地球に帰還するテレビ映像に目を奪われた、という長話を始めた。 「20階建てくらいの巨大な筒型ロケットが火を噴き出していた。白い炎だったが、数千度の熱が下がってきて…数千、数千と言っていたが、それが降りてくるあいだに吹き上がって…巨大な筒型が降りてきて、炎がパッと上がり、至るところで煙が噴き上がっていた」とトランプ氏は身振り手振りを交えて話した。「これはまずい、衝突してしまう、何ということだ、と私は口走った。なんだかまるで映画のワンシーンのようだった」 そこからは、自動車ローンの金利を免除するという自身の計画を、ペーパークリップの発明に例えるという話になぞらえる方向へと脱線した。 「とても単純な話だ」とトランプ氏は言った。「129年だか、それくらい前に、誰かがペーパークリップを発明した。それを見て他の人たちは、『どうして私はこのアイデアを思いつかなかったのだろう』と言った」 そこまで来てトランプ候補は、自分が台本からどれほど脱線したかに気づいた。「15分もプロンプターを見ていなかった」と同氏は誇らしげに言った。 (翻訳:エァクレーレン)