実話に基づいたヒューマンストーリー「ディア・ファミリー」涙があふれそうなほど感動したが、これも不思議なほどにポジティブ
大切な人に命のリミットがあるとしたら、私は一体どうするのだろうか。はたして私に何ができるのだろうか。大げさではなく、そのタイムリミットは明日かもしれないし、50年後かもしれない。どちらにせよ、感謝や愛を全て伝えきるにはきっと、人生は短すぎる。だからこそ一分一秒を重く、濃く生きていくことが、生を受けた私たちに与えられた使命なのだろう。そんなメッセージを強く感じた作品だった。 【写真】 大泉洋主演「ディア・ファミリー」 松村北斗「後に残る感動作」でも舞台あいさつは爆笑の渦
残酷な運命にあらがう
これは、世界で17万人の命を救った、とある日本の家族の物語。映画「ディア・ファミリー」は、今もなお多くの人の希望となり続けているIABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテル誕生の実話に基づいたヒューマンストーリーである。 小さな町工場を経営する坪井宣政の幼い娘・佳美は、生まれつき持っていた心臓疾患により余命10年を宣告される。世界中の医療機関にあたってみても、当時の医療技術では佳美の病気を治すことはできないという。愛する娘が20歳になるまで生きられない。そんな残酷な運命にあらがうように、宣政は自ら人工心臓を製作しようと決意する。「お父さんが絶対治してやる」。娘と交わした約束を守るために奮闘するが、知識も経験もない全くの専門外である医療器具の開発は限りなく不可能に近かった。かさんでいく膨大な費用、冷酷な有識者、そして迫り来る娘の命のタイムリミット……あらゆる壁が立ちはだかる中でも、途方もない挑戦をし続けた「諦めの悪い男」と、その家族が起こした奇跡を描く。
別れへのカウントダウン
「何もしない10年と、やってみる10年」。妻・陽子の言葉は宣政の背中を押し、彼らの人生を大きく変える。佳美を助けるためにはとにかく時間がない。坪井一家に流れる時間の感覚は、周囲と大きなギャップがあった。一分一秒がとてつもなく重く、少しも無駄にはできないのだ。しかし、宣政が作ろうとする人工心臓の実用には、果てしない実験と臨床試験が必要となる。海外で行われる同実験の失敗を報じるニュースに何度も落胆するなか、最初は協力的に見えた大学教授もハシゴを外そうとする。本来ならうれしいはずの娘の進学や誕生日も、別れへのカウントダウンに思えてしまう。募る焦りと常に付きまとう切なさ、変わらない現実。それでも励まし合いながら前に進み続ける彼ら家族の姿に周囲の人々の心も動かされ、希望の点がつながっていく。