【社説】同性婚判決 国会は法制化論議を急げ
当事者の苦悩に寄り添った価値ある司法判断だ。同性カップルら原告の感極まった表情からも、踏み込んだ判決であることがうかがえる。 同性婚を認めていない民法と戸籍法の規定が憲法違反かどうかが争われた訴訟で、東京高裁判決は規定を「違憲」と判断した。 性的指向は生まれながらに備わる属性だ。愛する人と共に生きる権利は誰にでもある。にもかかわらず、相手が同性であれば結婚できないのは合理的でなく、性的指向による差別だと断じた。 同種の訴訟は福岡など全国5地裁で6件起こされ、一審で5件が「違憲」または「違憲状態」とされた。 3月の札幌高裁に続き、高裁でも続けて違憲判決が出た意味は大きい。 同性婚の法制化を迫る大きな力となろう。政府と国会は判決の趣旨に沿って議論を急ぐべきだ。 東京高裁の判決は、現行法が法の下の平等を定めた憲法14条1項、個人の尊厳と両性の本質的平等を掲げた24条2項に違反するとした。婚姻制度で同性間と男女間を区別するのは不合理であり、不利益は重大と認めた。 同性カップルを法的に保護しても、男女間の婚姻には何ら影響しないとも述べた。同性婚制度は誰かの権利を脅かすものではない。現在は婚姻ができない人に必要な権利を保障するだけである。 特筆すべきは、判決が同性婚の法整備について具体的に例示した点だ。 民法と戸籍法を改正して同性婚を認めることや、同性婚について別の規定を新設する方法を挙げた。「具体的な制度構築は国会の立法裁量に委ねられる」として、国会に法制化の検討を促している。 政府と国会の動きは鈍い。衆院選で同性婚を認める公約を掲げた政党がある一方、政府は「国民の家族観とも密接に関わる」「同種訴訟の状況を注視する」と繰り返す。 同性婚が認められない現状を人権問題と受け止め、不利益や差別を解消することに重きを置くべきだ。 同性婚に否定的な人は一定数いるが、東京高裁は「社会的受容度はむしろ高まっている」との見方を示した。 多様な家族観や性的少数者の権利に対する国民の理解は進んでいる。5月の共同通信社による世論調査では73%が「同性婚を認める方がよい」と答えた。 自治体が同性カップルを公認するパートナーシップ制度も広がる。長崎県大村市のように、住民票の続柄欄を異性の事実婚と同様に記載する動きもある。 同性婚が可能な国・地域は40に迫り、世界的な潮流と言える。2025年1月にはタイで法制化される。 パートナーシップ制度だけでは税制や社会保険での不利益はなくならない。誰もが婚姻できるように法律を整備するのは当然のことである。
西日本新聞