中谷美紀さんがすべてをかけたNY公演の記録が1冊に。書くことでマイナスをプラスに昇華できた【インタビュー後編】
音楽家の夫のアドバイスにとても助けられました
稽古から含めるとニューヨーク滞在は長丁場で、体は疲労で悲鳴をあげるし、精神的にもストレスはたまるし、挑戦は過酷さを極めていきます。その中で、ひとときの癒しをもたらしてくれるのが夫のティロ・フェヒナーさんです。ウィーンフィルのヴィオラ奏者のフェヒナーさんが、ちょうど公演でニューヨークにいらしたときには合流して、一緒にご飯を食べたり、舞台のお稽古も見学されたりして。きっと勇気づけられたのではないでしょうか。 中谷さん 夫としての存在に癒されたというより、パフォーミングアーツに携わる者としてのアドバイスがものすごく的確で、それがとても有難かったですね。私が稽古初日から全力で声を出して喉を悪くしてしまったときには、一流のオペラ歌手は稽古初日から本気で歌う人はいないよと教えてくれたり、舞台の音響の調整を助言してくれたり。 稽古場でも本来は家族がいたら気になってしかたがないと思うのですが、彼はウィーン国立歌劇場にて毎晩のようにオペラやバレエの伴奏をしているので、職業柄、気配を消すことができるんです。稽古場にいても誰の邪魔にもならず存在することができる人で、それはもう目から鱗でした。バリシニコフさんともアーティスト同士、通じ合うところがあったのか、あっという間に信頼を得ていて、夫の人間力の高さにあらためて驚かされました。
書くことでマイナスをプラスに昇華させられる
これまでも『インド旅行記』や『オーストリア滞在記』など、日記エッセイを書いていらっしゃいますよね。どれも洒脱でユーモアがあって、臨場感あふれる筆致で読んでいて引き込まれますが、「書く」という作業は、中谷さんにとって、どんな意味がありますか。 中谷さん 半ば、愚痴を言いたくなるようなことを、自分でどうしたら楽しめるかなと思って書いているところがあります。生きていれば、いいことも悪いこともありますし、人生山あり谷ありですけれど、それを書いて吐き出すことによってマイナスな要素をプラスに昇華させている感覚はあります。 今回のエッセイも最初に書いたものは、かなり愚痴日記的な感じでしたので(笑)、本を出すにあたって表現を少し修正しました。その一方で、正直でありたいという気持ちもありましたので、ただ美しくまとめるのではなくて、ネガティブな気持ちをそのまま残しているところもあって、お見苦しい点も多々あるかと思いますが、お許しいただければと思います。