須賀健太、30歳を目前に新たな挑戦「40代、50代に向けて、自分を耕していきたい」【インタビュー】
子役としてデビューし、ドラマ「人にやさしく」や映画『ALWAYS 三丁目の夕日』などで注目を集めて以降、数々の映画、ドラマ、舞台で活躍する須賀健太。9月15日から上演される、東京芸術祭2024 芸劇オータムセレクション 東京芸術劇場Presents 木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」では、「吉三郎」の名を持つ三人の若者の一人、お坊吉三を演じる。 本作は、歌舞伎作者のレジェンド・河竹黙阿弥による最高傑作を原作に、数奇な運命に翻弄(ほんろう)されながら疾走する和尚、お坊、お嬢という“三人吉三”の物語と、現行歌舞伎ではカットされている、商人と花魁の恋をめぐる廓の物語がダイナミックに交錯する群像劇。これまで数々の古典作品を現代劇化してきた木ノ下歌舞伎の主宰、木ノ下裕一が監修・補綴、演出を杉原邦生が務める。須賀に本作への意気込みや稽古について、さらには30歳を目前に控えた今の心境を聞いた。 -上演時間が5時間を超えるエンターテインメント大作の本作ですが、最初に脚本を読んだときの率直なご感想を聞かせてください。 最初はその物量にびっくりしました。もちろん5時間くらいの作品になるというのは聞いた上で、覚悟して読んではいたのですけど、やっぱり字面で見ると、相当の迫力があって(苦笑)。1回では読みきれず、かみ締めながら、何度かに分けて読んで、これはまたすごい作品を引き受けてしまったなと思いました。 -須賀さんは、もともと歌舞伎にご興味があったんですか。 早乙女太一くんが主宰する大衆演劇の「劇団朱雀」に出演したことがあり、日本の伝統芸能に関わらせていただく機会が何度かあったんです。歌舞伎はそうしたものの根本にあると考えていたので、以前からリスペクトしていました。今回、より深く歌舞伎と向き合うことができる機会をいただけたことはとてもありがたいです。 -そうすると、歌舞伎作品であるということも本作への出演を決めた理由の一つだったのでしょうか。 そうですね。ちょうどお話をいただいたときに、木ノ下歌舞伎の「勧進帳」を見させていただいていて、純粋に引き込まれました。歌舞伎の持っている普遍的な力とともに新しさも伝わってきた作品で、自分がそうした場に立ったらどうなるんだろうと思ったというのも理由の一つです。それから、(杉原)邦生さんが演出を担当されるということもあります。(2022年に上演された)「血の婚礼」という舞台で邦生さんとご一緒させていただきましたが、芝居だけでなく美術や空間演出を含めて、総合芸術として作品を作り上げる方で、その空間にいることが楽しかったんです。今回、全く違う作風の作品で、どんな演出の表情が見えてくるのかと思っています。 今年、僕は30歳になるのですが、立ち位置も大きく変わる年齢でもあると思うので、そうした中でスキルアップを図っていかないといけないなとも思っていました。向き合いがいのあるものにどんどんチャレンジしていきたいと考えていたタイミングだったので、それも大きかったかもしれません。 -木ノ下歌舞伎では、「完コピ稽古」という、歌舞伎の全シーンを完全にコピーするお稽古をするそうですね。 初めてのことなので、正直、今もまだどうなるのか分からないでいます(笑)。創作作業において、役者は自分から出すものが絶対的に多いんですよ。今は再演なども増えてきていますが、先代がいるということはそこまで多くないですし、もし、先代がいたとしても、その人の芝居をコピーするわけではない。歌舞伎は歴史がつないできているものなので、先代がいて当たり前ですが、そうした違いも僕には勉強です。多分、まだ見えていないものも多いと思うので、今が一番、不安を感じているのだと思いますし、この作品に出演させていただくことで歌舞伎と仲良くなれるかもしれないと思っています。 -須賀さんは、漫画原作の2.5次元舞台にもご出演されているので、ある意味ではコピーすることには慣れているのかなとも思いました。もちろん、2.5次元舞台はコピーでもモノマネでもないですが。 今、言われてそうかもしれないと思いました。確かに2.5次元舞台は教科書として原作がありますね。ただ、おっしゃるように、2.5次元舞台であっても、アニメや漫画をモノマネするという感覚では捉えていなくて、あくまでも僕のフィルターを通して作っていくのだと僕は考えています。一瞬でもいいから原作以上のものが出せるようにという感覚があるんです。もしかしたら、そうした考えも今回の稽古を通して変わってくるのかもしれないなと思います。 -今回、演じるお坊吉三という役柄については、今、どのように考えていますか。 作品として、与えられている役割が大きいと思うので、本当に頑張らないといけないと感じています。お坊は、武家上がりの盗賊です。自分の意図しない形で境遇が変わってしまい、それに対するフラストレーションを抱えていますが、同時に武家の人間だったという気持ちも持っています。盗賊なので荒々しい部分も随所にありますが、その中にも品があるんです。現代の僕たちからすると100パーセント理解することは難しい感情かもしれないですが、そうしたところもうまく表現できたらなと思いますし、育ってきた環境が透けて見えるように作れたらいいなと思います。それから、邦生さんが少年性が欲しいとおっしゃっていたので、そうしたところも邦生さんと一緒に作っていけたらと思います。 -ところで、10月19日の誕生日で30歳を迎えられます。20代は須賀さんにとってどんな10年間でしたか。 あっという間に過ぎましたが、特にここ数年は濃い時間を過ごさせてもらっていると思います。昨年は劇団「ハイキュー!!」旗揚げ公演の演出もさせていただきました。劇団「ハイキュー!!」は、僕が20歳から21歳になるタイミングから始まったんですよ。その当時の取材で、「これからの自分の代表作になるような作品になったらいいな」という話をしていましたが、今となっては演出もやらせていただくようになり、代表作にもなっています。そうした経験を経て、自分本位ではない作品との向き合い方を考えるようになりましたし、よりお芝居が楽しくなりました。改めてお芝居をすることをもう1回知ろうとした20代だった気がします。 -先ほど、30歳になるにあたって、どんどんチャレンジしていこうと考えていたタイミングだったというお話もありましたが、これから30代に向けては挑戦していきたいという思いが強いのでしょうか。 先輩方を見ていても、いくつになっても新しい作品や新しい自分を追い求めているので、自分もそうありたいと思います。いろいろなご縁をいただいて、自分も作る側をやらせていただいたので、作品を作るということはこれからも続けていきたいと思っています。 -30代の目標は? 30代で何かをするというよりは、その先の40代、50代に向けて、自分を耕していきたいと思っています。僕はインドア派で、旅行も全然しなかったのですが、ここ1、2年はフラッと旅をするということをようやくし始めたんですよ。そうやって新しいことを始めることで、視野を広げていきたいと思います。そして、演出をやらせていただいたこともあり、自分より若い世代と作品を作っていくことが増えていくことを実感したので、さらに下の世代に向けて自分に何ができるのかを考えながらやっていきたいと思っています。 -改めて本作への意気込みと読者にメッセージをお願いします。 5時間という上演時間の長さが一人歩きしてしまいそうですが、物語を完全に伝え切るためにはどうしてもそのくらいの時間が必要です。木ノ下歌舞伎の「三人吉三」だからこそ見えてくるものをしっかり描いていけたらいいなと思っているので、ぜひ劇場には遊びに来ていただければと思います。 (取材・文・写真/嶋田真己) 東京芸術祭2024 芸劇オータムセレクション 東京芸術劇場Presents 木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」は、9月15日~29日に都内・東京芸術劇場 プレイハウスほか、長野(松本)、三重、兵庫で上演。