伊藤忠は知っているのか…旧ビッグモーターに新たに浮上した「無償提供塗料を正規価格で不正請求」疑惑
伊藤忠商事を中心とした3社から支援を受け、5月1日に新会社『WECARS』がスタートした旧ビッグモーター。新社長には伊藤忠出身の田中慎二郎氏(61)が就任し、4000人を超える社員と全国約250ヵ所ある店舗が引き継がれる。 【内部画像】おろそしい…! 店舗を視察する兼重宏一前副社長「腕組み&仁王立ち」の威圧感 伊藤忠は買収の条件に、「コンプライアンス重視の会社に生まれ変わる」ことを掲げてきた。WECARS発足の5月以降、伊藤忠からの要請のもと、閉鎖された事業所を含む全国の旧ビッグモーター板金工場において、過去10年間に保険修理を行った車両に関しての調査が行われている。 そんな中、筆者のところに利益市場主義を追求していた兼重宏行前社長(72)時代に行われていた新たな“不正請求疑惑”に関する情報が入ってきた。それが塗料メーカーから無償提供されたテスト用塗料を、有償塗料として保険会社に不正請求していたという疑惑だ。 その塗料とは日本ペイント製の『E-CUBE WB (2:1)NNクリヤー』と呼ばれる水性塗料だ。同製品は少なくとも’20年2月から、市販が開始される同年10月まで旧ビッグモーターに無償提供されていた。しかし、事情に詳しい旧ビッグモーター板金工場の関係者は「無償で提供されていたにもかかわらず、保険会社には正規価格で請求していた」と語る。 「日本ペイントと共同開発しているテスト品だから、水性塗料は無償提供されていると聞いていました。ですが、保険会社に見積もりを出す際に『普段購入している有償塗料と同じく材料代を請求するように』と指示があり、驚きました。指示をしてきたのは板金本部の部長です。商品としては不完全なものでしたし、現場はとても苦労していました」 そう言って1枚のLINE画像を見せてくれた。それは旧ビッグモーター板金塗装部門から全国の板金工場に向けて送られた「料金表」だという。日付は「’20年2月現在」と記されており、左下には板金本部の部長の名前が入っている。「MS」とは「三井住友海上」の略称だ。 価格表の「②材料代割合」を見てほしい。水性塗料とは『E-CUBE WB (2:1)NNクリヤー』を指す。それぞれの欄に書かれた利率は、塗装費用の総額に占める塗料の割合を示している。つまり、本来無償提供されているはずの『E-CUBE WB (2:1)NNクリヤー』について、費用を請求するように指示しているのだ。さらに「③オール水性加算」や「④ブース加算」の欄にも、作業時間などを多めに加算して申請するように明記されている。 「この表は水性塗料を使用した場合に、保険会社へいくら請求するのかを表しています。これに則って、実際に保険会社へ請求が行われていた。ビッグモーターでは水性塗料の使用を必須としており、こっそり油性塗料を使っていた工場には始末書を出させるほど厳しく対応していました。その裏には、こういったスキームがあったからなのかもしれません」(同前) このテスト品の水性塗料が実際に不正請求されたのだとすれば、大きな問題である。水性塗料の導入にあたって、現場からも不満の声が上がっていたという。この塗料は全国に先駆けて関東と西日本の工場に導入されたが、西日本の板金工場関係者が明かす。 「水性クリヤー塗料は環境や作業員の健康を考えると良い製品なんですが、非常に扱いにくい塗料です。まず、溶剤(油性塗料)に比べて乾燥時間がかなり長くかかります。仕上がりもなかなか決まらず、納車後も多数のクレームが出ていました」 元塗装スタッフも「当時は地獄だった」と振り返る。 「実際、水性塗料が始まった時がこれまで一番きつかった。定時近くで終わってたのが毎日深夜12時頃まで作業がかかっていました。地獄でしたね。やっと仕上がって納車しても、お客さんや保険会社を通じてのクレームの嵐でした。クレーム対応の作業は無償ですからね、ほんとつらかったです」 また、下請板金塗装工場の40代経営者も怒りを隠さない。 「ここ数年、塗料に関してもかなりの値上げが何度かありました。どこの工場も仕入れに苦労しています。まず長期間にわたる無償提供を受けていたというのがとんでもないことですよ。弊社のような板金塗装工場からはかなりの反感を買うと思います。ましてやそれを有償で保険会社に修理代請求していたとなれば……。本当に許されないことだと思います」 この件、大手損保3社にも当時の状況を聞いてみたが、いずれも「ビッグモーターが水性塗料を使い始めたことは知っているが、それらの中に無償提供された水性塗料があったとはまったく知らなかった」と回答している。各社の反応は以下の通りだ。 損保ジャパン 「当社では把握しておりません。材料費については各事業者ごとの仕入れ価格や使用量を把握することが困難であるため、一般的に要する費用を修理費として算定しております。保険金の返還を求める内容ではないと理解していますが、事実確認のうえ、不正請求が確認された場合には適切な対応をとってまいります」 三井住友海上 「無償提供の有無については認識しておりません。また把握する立場でもございません。日本ペイント社とビッグモーター社の個別取引と考えております。(また、疑惑が本当だとしても)弊社では個別事案において修理費協定し妥当な金額をお支払しておりますので、返還を求めることにはならないと考えます」 あいおいニッセイ同和 「塗料等の資材を無償で調達し、有償として保険会社に請求しているという事実を確認できていないため、現時点ではコメントできかねます。仮に無償提供されていたものが有償として保険会社に請求されていることが事実であると確認できた場合は、当社顧問弁護士とも相談のうえで対応いたします」 また、この件について日本ペイントホールディングス株式会社の広報担当部署に確認してみたところ、期日までに以下の回答があった。 「市販前の製品を板金塗装工場に使ってもらう『フィールドテスト』では塗料を無償提供させていただいています。期間は1工場あたり通常1週間、長くても1ヵ月ほどです。(中略)『E-CUBE WB (2:1)NNクリヤー』は’20年10月8日に発売された商品で、伝票を調べたところ地元の塗料販売業者を経由して10月9日に出荷されていました。塗料専門の販売業者が間に入るため、うちいくつがビッグモーターの店舗に行っているかは不明です」 損保も支給元も、「知らなかった」と口を揃えるなか、疑惑の張本人はどう答えるのか。旧ビッグモーター広報部(現:補償会社『BALM』広報部)に事実の確認を行ったところ、以下のような回答があった。 「個別取引に関する詳細開示は差し控えさせていただきますが、当社としては問い合わせのあった取引について、不正請求ではないと認識しております」 また今回の疑惑以外にも、前出の板金部門の関係者は、下地から上塗りまですべて水性塗料を使う高額な『オール水性』として保険会社に請求しながら、実は安い油性塗料を使っていた不正疑惑もあると話す。 次から次に出てくるおびただしい数の不正請求。伊藤忠はどこまで気づいているのだろうか。 取材・文:加藤久美子
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