『ブギウギ』梅吉、ついに『おちょやん』テルヲ化? “朝ドラダメ親父列伝”を紐解く
男やもめに蛆がわく。今の梅吉(柳葉敏郎)はそんな状態だ。いや、梅吉の場合は下宿先の女将・チズ(ふせえり)が身の回り世話をしてくれているので、生活はどうにか回っているが、最愛の妻であるツヤ(水川あさみ)を失った心の傷は化膿して今にも蛆がわきそうである。 【写真】誰もいない番頭台を見つめる梅吉(柳葉敏郎) NHK連続テレビ小説『ブギウギ』第9週のタイトルは「カカシみたいなワテ」。ステージの上では動かずに歌うことを強いられ、家に帰れば、哀しみを酒で誤魔化す梅吉を責めることもできず、ただ途方に暮れるしかないスズ子(趣里)の姿が描かれている。酔っ払って、娘にも迷惑をかける梅吉はまさしく“ダメ親父”。NHK大阪が制作する朝ドラでは定番となっているが、2021年以降は東京制作の朝ドラを含めて好感度の高い父親が続いたため、なにやら懐かしい気がしてくる。 ただ、梅吉に関しては途中からダメ親父になるという珍しいパターンだ。考えてみれば、仕事中に常連客と酒を飲んだり、映画の脚本を書く夢を捨てきれないでいたり、幼い頃に鈴子(澤井梨丘)が熱を出した時も風邪に弱いからと廊下に避難したり……その片鱗も見えなくはなかった。だが、不思議とダメ親父という感じがしなかったのはツヤと常にセットだったからだろう。どんな時もツヤがビシッとツッコミを入れてくれたから、梅吉のダメさ加減もユーモアに包まれて微笑ましく見られた。何より、ツヤ自身も幸せそうだったから。頼りがいがあってカッコいいとは到底言えないが、尻に敷かれながらも妻と子供たちを愛するお父ちゃん、ということで片付いていたのだ。 そんな相方でもある妻を失った途端、ダメな部分が剥き出しになる梅吉を見て思い出すのは『おちょやん』のテルヲ(トータス松本)である。どんなにダメ親父もかわいらしく見えてくるほどその上の上をいくダメっぷりを披露し、1961年から始まった“朝ドラ史上最低の父親”と評判になったこの男。娘である千代(杉咲花)に迷惑をかけたことは数知れず。わずか9歳の千代を奉公に出したところで退場してくれていたらまだ良かったが、酒と博打で莫大な借金を作り、千代の行く先々で金を無心しにやってきてはその人生をかき乱した。 よく引き合いに出されていた『スカーレット』の常治(北村一輝)も酒飲みで傍若無人だったが、働き者ではあったし、何より不器用だが娘の喜美子(戸田恵梨香)に対する愛があった。商売が下手なくせにプライドだけは高い『カーネーション』の善作(小林薫)も、一攫千金を狙っていろんな事業に手を出しては失敗する『まれ』の徹(大泉洋)も根本には家族への愛があったからこそ憎まれこそすれど愛されたし、常治がもういい大人になった喜美子の頭を頭をポンポンと撫でた後に息を引き取るシーンなんかは視聴者の涙を誘った。 かたや最終的には肝臓を患い、借金取りとの乱闘騒ぎで連行された末に獄中で千代の幻を見ながら一人寂しく逝ったテルヲ。自業自得としか言えない最期だったが、一つだけ同情する点があるとすれば、彼もまた最愛の妻を失っているということ。物語が始まった時点で妻のサエ(三戸なつめ)は亡き人となっていたが、もし生きていたらテルヲも当初の梅吉のようにダメなところはあるけれど家族思いの父ちゃんでいられたのかもしれないと思えばちょっぴり切ない。愛は人を強くもすれば、弱くもするのだと思わされる。 鈴子を抱き上げてみんなに自慢していた頃の梅吉はどこへ行ってしまったのか。戦地に行った六郎(黒崎煌代)の帰りを待ち侘びるのはいいが、そのことで「悪かったな、優しい娘やのうて」とスズ子に罪悪感を覚えさせる今の梅吉はダメ親父としか言いようがない。スズ子だって母親を亡くし、まだ哀しみの中にいながら、それでもツヤの代わりになるべく梅吉の前では気丈に振る舞っているというのに。梅吉も梅吉で心配だが、どうか2人の関係にこれ以上ヒビが入らず、元の仲良し親子に戻ってくれることを願っている。
苫とり子