何者かが盲導犬を刺す 被害男性「これは自分の“傷”」
一般社会の理解は「まだまだ」
アイメイト/盲導犬は、刑法上は「物」扱いだが、2002年に成立した「身体障害者補助犬法」では、ペットとは一線を画した権利を与えられている。同法は、公共施設やレストランなどの店舗、公共交通機関が盲導犬を伴っての入場を断ってはならないと定めた法律だ。誤解されがちだが、補助犬(盲導犬、聴導犬、介助犬)は「特別扱いされている犬」ではない。障害者の「体の一部」として、施設利用などの面ではパートナーと同等の権利を認められているのだ。 にも関わらず、今回のような事件・事例は後を立たない。例えば、今回の被害男性が直接知る女性ユーザーの盲導犬は、気付かないうちに額にマジックで落書きされ、女性は深い心の傷を負った。タバコの火を押し付けられたという話は「珍しくない」と、使用者や関係者は口を揃える。被害男性自身も「しっぽを踏まれる、わざと蹴られるのは日常茶飯事」と訴える。かつて白杖で歩いていた時には、若者のグループに腕を捕まれ、ツバを吐きかけられたこともあったという。 アイメイト協会は1957年以来、1200組余の使用者・アイメイトのペアを輩出しており、他の9の育成団体と合わせた全国の盲導犬の実働数は、現在1000頭余と言われている。初期のアイメイト使用者は、電車やバスに乗せてもらえるように個別に運行会社に掛けあったり、行政や国会議員への働きかけを積極的に行ったりしていた。21世紀になって「身体障害者補助犬法」が成立するに至り、長年の積み重ねが花開いたかのように見えるが、実態はそうでもないらしい。アイメイト協会の塩屋隆男理事長は、入店拒否は今も日常的にあると語る。例えば、神奈川県のアイメイト使用者の男性(69)は、「今年になってレストラン・旅館で4回も入店を拒否された。ちょっと多いですね」と話す。
また、近年特に目立つのは、逆のベクトルでアイメイトの存在そのものを“虐待”だと受け止め、執拗に協会に抗議してくる市民の存在だ。多くは「犬を暑い中無理やり歩かせている」「きつく叱っていた」といった使用者や協会スタッフに向けた非難だという。「事実と正しい理解に基づいた批判ならば真摯に受け止めなくてはなりません。しかし、ほとんどは犬を安易に擬人化した、言いがかりのようなものです」と、塩屋理事長はため息をつく。 彼らは「盲人を導く」スーパードッグではない。あるいは、刑法上は「物」だからと言って、何をしてもいいということでもない。少なくとも、人の目となる対等なパートナー=「アイメイト」だということは、公にも認められている。先の今年4回入店拒否に遭ったという使用者は、次のように訴える。 「アイメイトを傷つけたりむやみに拒否することは、単に動物愛護の問題ではありません。人権侵害です」 (内村コースケ/フォトジャーナリスト)