個人情報を自分で販売 データ資本主義社会の新ビジネス「情報銀行」
歩行履歴が販売の対象に
今やデータを活用したビジネスは珍しくない。早ければ来年にも始まろうとしているのが、消費者が自分の情報を販売して対価を受け取るというサービス。そこでは、歩行履歴すらも販売の対象になるというのだ。 今年10月に開催されたアジア最大級のIoT製品の展示会「CEATEC JAPAN 2018」。会場では、三菱UFJ信託銀行が手がける情報銀行サービス「DPRIME」が披露された。情報銀行とは、個人データをプラットフォームで一元管理し、利用者の意向に沿って、事業者に情報を提供する仕組みのことだ。 DPRIMEは、センサーが内蔵された靴を使って歩行履歴などを集め、それをアプリで管理できるようになっている。ユーザーは、利用条件を確認した上で、提供してもよいと思う情報を選択し、利用を許諾。すると、現金やサービスといった対価が支払われ、企業はその情報をサービスに活かすことができるのだ。三菱UFJ信託銀行は、来年度中の実用化を目指している。 個人情報の取り扱いをめぐっては、今年3月、米・フェイスブックから約8700万人分に及ぶユーザー情報の流出が発覚し、波紋を呼んだ。こうした中、EUでは今年5月、欧州経済領域外への個人データの持ち出しを原則禁止する「一般データ保護規則(GDPR)」が施行。日本でも去年、改正個人情報保護法が施行されており、個人情報に関する議論は活発化している。 個人情報保護法制に詳しい、西村あさひ法律事務所の石川智也弁護士は「実際に情報銀行のサービスを提供する企業において、十分な情報セキュリティの体制が整備されるか。本人の本当の希望通りに適切に(情報が)扱われるか。その2点が十分にできるかというのが懸念」と話す。
SNSに膨大な個人情報を把握されている
フェイスブックでは、サービスを利用中に提供した個人情報をダウンロードすることができる。実際に確認してみた結果、容量にして95メガバイト。印刷してみると、A4サイズの用紙 約700枚分にものぼった。これらは、投稿した文章や画像、友人とのメッセージのやり取り、ログイン実績が中心だ。しかし、中には、記事の閲覧履歴などから趣味・関心を予想し、関連性の高い広告を表示する際の参考となる要素も蓄積されていた。また、提供した連絡先情報を使用して広告を掲載している企業やサービスがリストになっていた。漫然と閲覧しているうちに情報提供に同意してしまったのだろうが、情報管理における認識の甘さを思い知らされた。 新たな収益源になるとして情報銀行に期待する事業者がいる一方、一般消費者は情報漏えいなどを危惧し、その利用に慎重な様子だった。 30代の男性会社員はリスクを考慮して、利用は控えたいと話した。「ポイントカードを使うとそうなる(個人情報を提供する)場合もあるとは思うが、積極的にそれを自分で利益のためにやろうとは思わない。便利な反面、怖いというところは紙一重なのかなと思う」 また、20代のフリーターの男性は興味を示しつつも、しばらくは静観するそうだ。「個人情報ってなると慎重になる部分があるので、実際に流出する(危険性)とかがどれくらいなのかをしっかりと見ていきたい。(セキュリティ対策などが)ちゃんとしてきたなっていうのが分かってくれば使いたい」 石川智也弁護士は情報銀行が普及するために必要な要素をこう考えている。「メリットがあると感じられるサービスがどれくらい出てくるかというのがひとつあるのと、個人データを使うものなので、信頼される仕組みがわかりやすく説明されないといけない。その2点がクリアされれば、十分に情報銀行というものが日本で普及していく可能性があると思う」
事業者に求められるのは「安全性」と「透明性」
情報銀行に参入する動きは活発になっており、三菱UFJ信託銀行のほか、電通が子会社を通じて情報銀行サービスを手がける新会社を設立した。また、日立製作所や日本郵便なども実現可能性を探るため、実証実験を進めている。事業者は、日本IT団体連盟による審査を経て、来年3月頃に認定される見通しだ。 一般消費者の理解を促すためには、データ利用の安全性を確保するセキュリティ対策はもちろん、消費者自身がデータの利用履歴を確認できる透明性が求められる。情報銀行は広く受け入れられ、データ資本主義を加速させるエンジンとなり得るのだろうか。 (取材・撮影・文/菅 将徳)