渡辺恒雄さんの取材で見えた〝意外な人間性〟 読売新聞幹部「鳥好きのおじいちゃん」、生涯浮気は皆無、愛妻家の一面も
【元文春エース記者 竜太郎が見た!】 「新聞記者は決して尊敬できない人が相手でも、尊敬しているかのように振る舞って取材しなくてはいけない場面もある。それがこの職業のつらいところであり、記者という職業の悪い側面とも言えるな」 【写真】談笑する長嶋茂雄氏と渡辺恒雄氏 12月19日、読売新聞グループ本社の渡辺恒雄代表取締役主筆が98歳で死去した。 冒頭の言葉は2年前、「文藝春秋」のインタビューでスクープの秘訣などを語った一節だが、経験に基づいた含蓄があり、ジャーナリズムを考えるうえで筆者も大いに共感と学びがあった。 巨人軍オーナー、政界のフィクサー、オールドメディアの首領(ドン)として知られた渡辺氏。本人は「ナベツネ」と呼ばれることを嫌っており、記者時代は「ワタツネ」と呼ばれていたという。 「ナベツネ」には「悪者」イメージがついてまわる。特に日本プロ野球選手会のストライキをめぐる「たかが選手」発言で、野球ファンを中心に世間から「野球界の独裁者」と猛反発を招いた。 しかも政治記者だった渡辺氏は中曽根康弘元首相と昵懇(じっこん)で、歴代総理が相談しに行くほどの影の権力者だった。ふてぶてしい面構えで世間の非難をものともしないアクの強いキャラは、恰好のヒール扱いで、いしいひさいちの漫画でもよくネタになっていた。しかし以前筆者が取材すると、意外な人間性が見えた。 「面倒見がいいですし、主筆は部下からすごく好かれていました。会社では資料を読んだり原稿を執筆したり。中庭に出て、ひとりで鳩に餌をあげているのを見かけますけど、〝鳥好きのおじいちゃん〟という感じでした」(読売新聞幹部) 愛鳥家の渡辺氏は、自宅で九官鳥を飼っていたときはよく話しかけ、わが子のようにかわいがっていたという。その九官鳥を狙うカラスを撃退するため、勢い余ってベランダから落下して骨折したことも。 「小沢一郎氏も無類の鳥好きですけど、どちらも孤独そうで、なぜか似たようなタイプに思える」(政治部記者) また渡辺氏は劇団女優の夫人と結婚して以来、生涯浮気は皆無。晩年は認知症を患った妻を介抱し、キスやハグを日常にしていた愛妻家の一面もあった。